■中小企業向けにOA機器や情報セキュリティー機器の販売・保守業務を手掛ける株式会社NO.1(社長・辰巳崇之)が昨年10月、同社を買い手とする事業継承M&A交渉に際して提供された顧客リストを不正にコピーしたとして、売り手企業から「業務上横領」で警視庁某署に刑事告訴されていたことが分かった。NO.1は昨年3月にジャスダックに新規上場(主幹事・SBI証券)したが、捜査の結果によっては上場企業として深刻な事態に陥る可能性が出てきた。
■関係者によると、NO.1は上場前の2014年暮れ頃から、事務用機器・会計ソフト等販売業のA社の事業継承に向けた話し合いを開始した。NO.1常務取締役・竹澤薫が主なカウンターパートを務め、15年末にA社に財務諸表等を提出させ、デューデリジェンスに入った。問題となったのは、デューデリの過程でA社から提出された顧客リストである。A社はNO.1から16年1月、顧客リスト提供の要請を受けるも、当時NO.1とA社は秘密保持契約等を締結していなかったため難色を示したが、竹澤らは「NO.1のコンピュータには入力しないこと、資料として使わない事」をA社に約束。A社は、万が一リストが取り外された場合に、そのことが確認できるよう、綴じ込み金具に接着剤をつけるなど工夫した紙ベースのリストを同年2月に提出した。
■その約一か月後の3月2日、NO.1本社に突如呼び出されたA社は、竹澤から「事業継承の話は白紙に戻したい」と通告される。その際にA社は経理部長より、顧客リストを無断でコンピュータに入力していたことが明かされ、実際に綴じ込み金具を確認したところ、接着剤が剥がされているなどリストが取り外されていたことを示していたという。その後、事業提携案などが浮上するも事実上白紙となった。
■M&A交渉を担当していた竹澤は当初「顧客リストを入力した事実はない」と否定していたが、その後の17年4月、社長の辰巳がリストの入力を認めた。辰巳はA社に対し〈(16年)2月4日当社(担当 竹澤薫)より資金提供との関連で、貴社の財産である顧客リストの提出を求め、貴社より「このリストは当社のコンピューターに入力しないこと、当社の業務資料としても使用しないこと」の申出を受け、これに同意して、上記顧客リストを預り保管しました。しかし、当社は貴社との上記合意にも拘らず、貴社の同意を得ることなく、上記リストを事業継承に向けての社内検討のためにデータ化してしまいました〉との確認書を送付しているが、最終的にA社とNO.1でデータの取り扱い等で折り合いがつかず、刑事告訴に至った。
■NO.1は「光通信」色の強い会社である。創業者の上坂直行は光通信出身、主要株主の㈱アイ・イーグループと㈱インフォサービスは光通信の子会社で、アイ・イー社は主要仕入先の一つである。上坂は上場直後に持ち株の大半を市場で売却し一部で話題になっていた。
(文中敬称略)