■前掲記事の通り、株主と経営陣が対立する局面において、攻撃側・防衛側の双方から依頼を受けることができるアイ・アールジャパン(代表・寺下史郎、以下IRJ)は、利益相反や優越的地位濫用が疑われやすい立場に置かれることが多い。経営陣には不適切な情報共有を防ぐ倫理性が求められる。ところが、IRJの一部幹部が、クライアントの危機に乗じて、個人会社でアドバイザリーフィーを得ようとした疑いがある。
■東証2部の不動産会社プロスペクトは19年5月頃から、筆頭株主の太陽光発電関連・伸和工業(社長・西村浩)と敵対関係に陥っていた。西村は元々、太陽光関連事業の提携先だったが、19年3月頃にプロスペクト株式を10%ほどまで買付け、6月の株主総会に前後して自らを役員に入れるよう働きかけていた。同年11月には臨時株主総会を請求し、反会社活動を本格化させた。対するプロスペクト経営陣はIRJを頼った。
■西村は20年1月に証券取引等監視委員会からインサイダー取引の嫌疑で強制捜査を受けたが、4月頃に大量保有報告書を提出した金融グループ「Jトラスト」代表の藤澤信義と連携し、勢力を拡大。西村らが請求する臨総は6月1日に設定され、IRJはコールセンターを通じての電話勧誘や主要な株主への戸別訪問による委任状勧誘などを展開した。ここまではプロキシーファイトの常道だろう。
■プロスペクトを巡る攻防戦のハイライトは、臨総が目前に迫った5月29日に出された2つの開示である。北尾吉孝率いるSBIホールディングスとの業務提携と、発行済株式総数の約17%を保有する福島県の第二地銀「大東銀行」株式をSBIへ売却するというものだ。金商法違反の嫌疑が掛かる西村や、Jトラスト藤澤に対して信用力で勝るSBIを担ぎだすことで、株主の支持を得ようとしたものと思われる。
■このSBIとの一連の取引はIRJが差配したものである可能性が高い。この頃、IRJはSBIとの関係を深めていた。19年11月の福島銀行がSBIへの第三者割当増資した際、IRJはファイナンシャルアドバイザーに就いていた。20年11月の仙台銀行ときらやか銀行の持株会社「じもとホールディングス」によるSBIへの第三者割当増資でも、アドバイザリーを務めていたのはIRJだ。
■ただ、問題はこの取引に不可解な法人が絡んでいることだ。「クリオプランニング合同会社」という、大阪府豊中市の民家に登記された資本金100万円のペーパーカンパニーである。このクリオプランニング、IRJの子会社でも、関連会社でもないが、業務執行社員はほかでもないIRJの代表取締役副社長・栗尾拓滋である。登記上の本店は栗尾の親族の居宅だ。関係者によると、SBIとの取引に及んだ際に、栗尾の肩書がIRJからクリオプランニングに忽然と変化していたという。
■栗尾はSBIの北尾吉孝と同じ野村證券出身で、SBIとIRJとの関係は栗尾の力によるものであると考えられる。SBIが進める地銀再編のキーマンの1人といっても過言ではない。だが仮にそうであったとしても、IRJのクライアントとの関係に、個人会社を挟んでくる正当な理由はない。おそらく、大東銀行株式のディールがあったことにかこつけて、アドバイザーフィーなど個人的な〝役得〟を得ようとしたのではないか。
■当サイトは今年2月頃からIRJに対し、本連載で取り上げた事案について断続的に取材を申し込んでおり、3月5日にもクリオプランニングがクライアントから金銭を受領することはあるか、プロスペクトから金銭を受け取ったか、などの事実確認を行っていた。すると、それまでは質問に対して「個別案件につきましてはコメントは控えさせていただいております」という通り一遍の返事が来ていたが、クリオプランニングに関する取材に及んで以降、返事が途絶えている。クリオプランニングの設立は栗尾がIRJに入社する直前の13年3月であり、プロスペクト以外の案件でも、IRJが絡んだディールで個人的な役得を得ていた可能性はないのだろうか。
■クリオプランニングが登場した経緯の不可解さを見ると、IRJ幹部の倫理性は極めて疑わしく見える。役員が会社利益を差し置いて、個人的利益を稼得しようとしたと疑われる社内状況で、利益相反や優越的地位濫用を防げるのだろうか。IRJを巡っては、最近も非上場のLTTバイオファーマの友好的TOBにおいて、プロキシーアドバイザー業務や株主名簿管理業務を請け負っていながら、公開買付における第三者算定機関も兼務しているとして、利益相反を指摘されている。
(文中敬称略)
2021年4月26日付レポート:「株主総会の用心棒」アイ・アールジャパンの〝二重基準〟(1) HISvs.ユニゾ、駅探Vs.CEHD攻防戦で〝ひとり芝居〟