SMFGが戦慄「ブラジルレアル・トルコリラ仕組債」の惨禍(1) 2万超える一般投資家に1000億超の損失 一部の顧客が脅迫事件も


1280px-SMFG_logo.svg■SMBC日興証券(社長・清水喜彦、以下日興証券)が2014年頃に販売した新興国為替仕組債が、約2万件の一般投資家に1000億円を超える損失をもたらして波紋を呼びそうだ。問題の仕組債は裕福でない人でも投資できる公募形式で販売され、投資した人の多くは三井住友銀行の担当者から日興証券営業マンの紹介を受けていた。三井住友フィナンシャルグループ(社長・太田純、以下SMFG)の銀証連携の在り方にも疑問を投げかけそうだ。
■問題の公募仕組債は2013年10月から2015年8月頃に販売されたトルコリラ・デュアル債とブラジルレアル・リンク債。基準通貨のトルコリラやブラジルレアルの為替相場によって、得られる利子や償還額が変動する。5年の満期時に基準通貨が購入時点より一定程度安値(円高)で推移すれば4.82%~10.65%の利子を受け取ることができるが、逆に購入時を上回る(円安)となると早期償還となり、利子を得る機会を失う。
■しかし為替が安値(円高)すぎても良くない。購入時よりも8円~10円以上安値となると利子率は0.01%となり、償還時に12円~15円以上安値で推移しているのであれば、その下落率に合わせた額で償還されることになる。例えば、購入時が1リラ50円、償還判定為替が35円の仕組債を1000万円購入した場合で、もし5年後20円ならば償還額は400万円となる。実態は投資家にとってリスクの多いプットオプションの売りである。この危ない仕組債が、関係者によると1件あたり1000万円程度で約2万件、下記のリストに示す通り約2600億円も発行された(TRYはトルコリラデュアル債、BRLはブラジルレアルリンク債、発行日をクリックするとSMBCの商品ページに)。

発行日 基準通貨 利率 基準為替(円) 償還判定為替 発行額(億) 償還日 償還時為替 償還額 損失額
2013/10/23 TRY 6.00% 49.32 34.32 81.5 2018/10/23 早期償還と思われる
2013/11/19 TRY 4.82% 49.69 34.69 140 2018/11/19 早期償還と思われる
2014/4/24 TRY 8.85% 48.09 33.09 68.67 2019/4/24 早期償還と思われる
2014/5/27 BRL 8.05% 45.69 32.69 250 2019/5/24 早期償還と思われる
2014/7/24 BRL 7.00% 45.86 32.86 250 2019/7/24 28.67 156.30 -93.70
2014/8/14 BRL 8.20% 45.14 32.14 109 2019/8/14 26.13 63.11 -45.90
2014/8/27 BRL 5.00% 46.03 33.03 184.4 2019/8/27 25.60 102.54 -81.85
2014/9/18 BRL 6.00% 45.93 33.93 173.5 2019/9/18 26.38 99.64 -73.84
2014/9/29 TRY 7.90% 47.84 35.84 114.9 2019/9/24 18.79 45.15 -69.78
2014/10/30 BRL 6.05% 45.18 33.18 154.8 2019/10/30 27.28 93.44 -61.32
2014/12/1 BRL 7.00% 46.03 34.03 161.2 2019/11/27 25.69 89.96 -71.20
2014/12/1 TRY 5.20% 53.34 41.34 47.87 2019/11/27 18.96 17.02 -30.85
2014/12/29 TRY 4.54% 51.91 39.91 74.94 2019/12/18 18.50 26.70 -48.24
2015/1/22 TRY 5.50% 50.39 38.39 115.9 2020/1/22 18.56 42.69 -73.23
2015/2/2 BRL 6.50% 43.72 31.72 219.4 2020/2/3 25.58 128.38 -91.01
2015/2/19 TRY 4.75% 48.59 36.59 134.4 2020/2/19 18.32 50.67 -83.76
2015/3/2 TRY 6.80% 47.67 35.67 125.4 2020/3/2 17.65 46.43 -78.97
2015/3/30 TRY 8.70% 46.00 34.00 56.77 2020/3/26 17.65 21.78 -34.99
2015/4/28 TRY 7.55% 44.61 32.61 77.15 2020/4/28 17.65 30.52 -46.63
2015/8/5 TRY 9.81% 44.71 32.71 58.88 2020/8/5 17.65 23.24 -35.64
2015/8/27 TRY 10.65% 41.15 29.15 52.61 2020/8/27 17.65 22.57 -30.04
合計(億)         2651     1060 -1050

■問題の仕組債は、販売から間もなく「本性」をあらわす。利払いが始まる2015年秋頃からブラジルレアル・トリコリラの為替相場は下落し、16年6月頃に利率判定為替を割った。その後も下げ止まらず、償還が始まる昨年頃には販売時の4割~6割にまで下落してしまった。早期償還されたと思われるものを除いた合計額は約2100億円。まだ満期償還を迎えていない仕組債の償還時の為替を2月27日終値(17.65)とすると、上記仕組債の損失は約1050億円となる。

■仕組債販売時から償還時までの基準通貨の推移
■仕組債販売時から償還時までの基準通貨の推移

■基準通貨の下落が始まった2016年頃、SMBCグループ内部でもこの仕組債について顧客に説明するなどの対応が協議されていた。この時から、通貨安が続けばいつか元本割れが大規模に発生するだろうとして、「2019年問題」を危惧する者もいたという。そして2019年夏、ついに恐れていた事態が起こった。
■昨年8月、警視庁は大手証券会社の社員を脅したとして、江戸川区に住む71歳の男性を脅迫容疑で逮捕した。報道によると男性は8月15日、妻が保有していた証券で500万円の損失が出たことに腹を立て、営業課長を自宅に呼び出し「ぶっ殺す」と言って脅したという。実は、被害に遭った証券会社はSMBC日興証券であり、男性が購入していたのは問題の仕組債だった。関係者によると、説明に訪れた女性社員の前で刃物を持ち出すなど、修羅場だったという。現場の若い社員が危険に晒されたのである。
■事件前日の8月14日は、2014年8月に発行されたブラジルレアル・リンク債が満期償還を迎えていた。償還額は元本のわずか57%で、預けた資金の約半分が消失していた。逮捕された男性のように損失に激怒する顧客の対応に、いまも現場が苦慮していると思われる。
■仕組債が発行された当時は安倍内閣でのアベノミクスが始動して間もなく、富裕層ではない一般人の間でも投資熱が高まっていた。13年9月に東京五輪開催が決定し、16年に五輪開催が決まっていたブラジル、2024年五輪開催が噂されていたトルコの商品ということで、希望的観測を抱きやすく売りやすかった面もあるだろう。
■だが2年足らずの間に2万件もの販売を実現したのは、三井住友銀行のバックアップによるところが大きい。関係者によると、16年頃までの仕組債購入者の約半分は三井住友銀行の紹介である。一体なぜ、リスクの高い商品を顧客に売りつけなければなかったのか。この事案の背景には、SMBCグループの特殊事情があった(つづく)。

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