「株主総会の用心棒」アイ・アールジャパンの〝二重基準〟(1) HISvs.ユニゾ、駅探vs.CEHD攻防戦で〝ひとり芝居〟


■株主名簿に記載の信託銀行名義や、タックスヘイブン所在のビークルなど、いわゆる〝名義株〟を実態把握する株主判明調査から、株主提案や支配権争奪戦におけるプロキシーアドバイザー業務を拡大させている東証1部アイ・アールジャパンホールディングス(社長・寺下史郎、以下IRJ)。海外投資ファンドによる買収や株主提案権行使が相次ぐ中、日本の経営者の味方を自認するIRJは売上を伸ばしている。だがその一方、野党・攻撃側に回るなど、敵対的買収や株主提案権行使への関与も強めているようだ。
■IRJの連結売上高はここ数年で急速に伸長している。18年3月期4,113百万円、19年3月期4,827百万円、20年3月期7,682百万円で、21年3月期は8,280百万円と予想している。19年3月期から20年3月期にかけて増加した売上(2,855百万円)の大半は、1案件5000万円以上の大型案件の受注によるものだ。
■そのうち、支配権争奪戦は70百万円→910百万円に、アクティビスト対応は195百万円→1,514百万円に、MBOのアドバイザリーは273百万円→705百万円に増加した。同社にとっての成長分野は、平時の株主判明調査から、アクティビスト襲来やプロキシーファイトなどの〝有事対応〟となりつつある。
■近年、アクティビスト対応の専門家的位置づけで情報発信を繰り返しているIRJは、〝敵性株主〟に狙われた上場会社にとっての頼れる味方、であるようなイメージを作り上げている。だが実際は、敵対的買収といった従来の日本的経営に反する営業もかけているようだ。
昨年5月、マザーズ上場の乗り換え案内・時刻表サービスの株式会社駅探が、同年6月開催予定の定時株主総会に際して、大株主の東証1部CEホールディングスから7名もの取締役選任の株主提案を受けた。駅探はCEホールディングスの提案に反対。株主提案された経営陣では、中期経営計画の継続性が見込まれないこと、CEホールディングスから独立した経営ができないこと、TOKAIコミュニケーションズの業務提携が難しくなることなどを理由に挙げた。
IRJは駅探のアドバイザリーに付き、「株主様アンケート」と称して株主に電話勧誘・戸別訪問を行い、委任状の回収を行っていたという。前記の株主提案への反対キャンペーンもIRJが振り付けたものと思われる。だがその甲斐むなしく、駅探は株主総会前にCEホールディングスの株主提案を受け入れた。無血開城を許したのは、事前の票読みで旗色が悪かったからと思われる。
■駅探側にとっては余計なカネがかかっただけで、CEホールディングスからすれば、無用な反対キャンペーンを張られたこの一連の紛争。実は、IRJは株主提案に先立って、CEホールディングスに自身をアドバイザリーに付けるよう営業を行っていたようだ。ところが、CEホールディングス単独で株主提案権行使に動いたため、今度は駅探側に寝返り、反CEホールディングスキャンペーンを展開。駅探と共に〝中計の継続性〟云々を喧伝していたわけだが、当初はあわよくばCEホールディングス側に就こうという魂胆があったに違いない。
■当サイトは今年2月、IRJにこの件について取材を申し込んだところ、「個別案件についてはコメントは控えさせていただいております」とのことだった。実は、IRJがこのような寝返りを打ったのはこれが初めてではない。
19年7月、当時東証1部に上場していたユニゾホールディングスは、大株主の旅行大手エイチ・アイ・エスから敵対的株式公開買い付け(TOB)を仕掛けられていた。IRJはこの時、エイチ・アイ・エス側のアドバイザリーに就いていた。しかし、ソフトバンク系のフォートレス・インベストメントが対抗TOBを仕掛け、エイチ・アイ・エスは持株を売却し撤退した。
■通常なら、エイチ・アイ・エスと共にIRJもこの案件をクローズ、ということになるだろうが、IRJは敵方だったはずのユニゾのアドバイザリーに〝転戦〟。最終的にユニゾはフォートレスから離れ、従業員買収(EBO)を実施。買い付け価格は6000円となった。IRJがアドバイザリーについたエイチ・アイ・エスのTOB価格はわずか3100円である。
■一般的に、プロキシーアドバイザーに就任すると、クライアント側である経営側から個別株主に関する情報や、詳細な株主名簿の提供を受け、電話勧誘や戸別訪問などのアプローチによって敵方か味方かを判別していくことになる。これが野党・攻撃側や、与党・防衛側に寝返ると、敵方の戦術だけでなく、敵方に賛同している勢力の情報を使い、プロキシーファイトを展開することが可能となってしまう。
■もちろん、IRJが同時期に野党側・与党側のアドバイザリーを兼務することはない。ただし、仮に契約の時間軸をずらしても、利益相反や優越的地位濫用が起こりえないわけではない。例えば今年の株主総会をIRJをアドバイザリーに付け乗り切ったとしても、翌年にもし契約を継続しなかった場合、敵性株主に寝返られる可能性がある。
■IRJとしては、担当者を変えたり、オフィスを分けるなど、不適切な情報共有が起こらないような配慮をしているようだが、野党側・与党側の双方から業務を受託しているのはアイ・アールジャパン単一の法人である。寺下の脳内にファイヤーウォールを立てることはできない以上、利益相反や優越的地位濫用のリスクは否定できない。そうした事業上のリスクを防ぐ手立ては有報などに記載されていない。
■たとえば、IRJの経営陣が、利益相反や優越的地位濫用をしないような崇高な倫理性を持っているのなら、当サイトの懸念は杞憂かもしれない。だが、経営陣の一部には、モラルを疑うような事象も起きている(文中敬称略、つづく)。

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