■監査調書は、監査法人の業務の根幹を成す最重要書類であり、クライアントの機密情報でもあることは論を待たず、公認会計士にとっては神聖な書類と言っても過言ではない。その管理は厳正に行うよう監査の基準等で定められている。ところが四大監査法人の一角であるはずのあずさ監査法人において、同じ時期にクライアント2社の監査調書を紛失するという事態が発生していたことが分かった。また、紛失の原因を特定できていないにもかかわらず、金融庁に「誤廃棄」と事態を矮小化して報告していた疑いも浮上している。
■この問題は、去る9月6日付レポートの発端となったあずさ監査法人に所属していた公認会計士と同法人とのパワハラ訴訟の中で明らかとなった。2012年3月から9月にかけて、クライアントの筑波銀行と共立信用組合の監査調書の紛失が判明。調書保管庫やクライアント事務所、外部倉庫など考えうるあらゆる場所を捜索し、警察への問い合わせも行ったが、見つけることができなかったという。
■原告会計士が証拠提出した内部文書「金融事業部調査報告」によれば、12年3月、共立信用組合の監査調書をあずさ監査法人のスタッフが同法人金融事業部の調書保管庫に返却して以降、行方が分からなくなっている。9月4日に金融事業部で毎年一回実施されている一斉調書棚卸があったが、そこでも発見されることはなかった。筑波銀行のものは、一斉調書棚卸に先駆けて同行を担当していたスタッフが8月末に同行監査室を確認したところ、監査調書7冊が所在不明となっていることが判明したという。
■2社の調書紛失を受け、あずさ監査法人は8月末から9月下旬にかけて、調書の運搬状況の調査、他部署へのヒアリング、スーツケース等の調査、クライアント監査室、外部委託倉庫、機密文書廃棄箱の調査などを実施した。また、警視庁遺失物センターやスタッフの通勤路線及び所轄署への照会を行っている。こうした懸命の捜索にもかかわらず、報告書は〈所在不明調書の存在は確認できていない。また、所在不明に繋がる直接的な理由は判明していない〉と結んでいる。
■問題は監督官庁の金融庁にこの事案をどう報告したかだ。あずさ監査法人は訴訟の中で、監査調書の紛失は認めたものの、〈筑波銀行及び共立信用組合の調書の一部が誤廃棄により紛失したが、直ちに金融庁にも報告を行うなど適切な対応を行った〉(被告準備書面)と主張している。金融機関の監査調書であるから、顧客である融資先の情報が流出した恐れがある。盗まれたか失くしたか不明なままと、あくまで捨てたことを判明させた「誤廃棄」では、事態の認識に大きな隔たりがあるだろう。
■あずさ監査法人の主張を読む限り、金融庁へは「誤廃棄」と報告したようだが、上述したように調書を廃棄したかどうかわからないままで、警察に照会を行うなど外部に流出した可能性を捨てきれていなかったはずだ。「誤廃棄」と矮小化した報告を行った理由はおそらく――あずさ監査法人は2006年に一度、金融庁の公認会計士・監査審査会から勧告を受け、〈監査調書の作成・保存に不十分な点が認められる〉と不備を指摘されている。ありのまま報告すれば、改善が見られないと判断され、再度勧告を受けることを怖れたのであろう。
■ところで、今回も当サイトは監査調書紛失についてあずさ監査法人に取材したところ、15日に「個別案件に係ることですので、回答は控えさせていただきます」と来た。予想された結果だが、今回の回答書には奇妙な点があった。日付が「2017/09/06」と記されているのである。この日付は前回に監査調書改竄の件を質問した際の回答書の日付だ。断っておくが、今回の質問書には6日付回答への再質問などは行っていない。つまり、6日付の回答書をほとんどそのまま代用していると考えられる。質問内容をきちんと見る前から「個別案件~と回答しておけばいいか」とタカを括っているのではないか。
(つづく)
本年9月6日付レポート:あずさ監査法人が組織ぐるみで監査調書改竄か 公認会計士協会の「品質管理レビュー」に備え杜撰監査隠蔽目的 パワハラ訴訟で争点化し判明