■ロボットスーツの開発を掲げ14年マザーズ上場、17年に「ベンチャー企業大賞」の内閣総理大臣賞を受賞した、「日本のイノベーション」を象徴する銘柄だったCYBERDYNE㈱(サイバーダイン、社長・山海嘉之)。上場してからというもの、未だ黒字決算を出したことがない同社がいま、2つの巨大なロボット施設の建設を計画している。しかし、土地の取得だけは先行したものの、同社の財務状況では許容しきれない規模の建設費が見込まれ、計画の実現性に疑問符がついている。
■14年8月、サイバーダインは都市再生機構(UR)が実施した京浜臨海部ライフサイエンス特区(川崎市川崎区殿町3丁目)の土地15,433㎡の公募入札に応募し、30億円で落札した(引き渡しは同年10月)。先だって4月には黒岩祐治神奈川県知事と産業創出に掛かる覚書を、6月には川崎市と包括協定を結び、地ならしは整っていた。
■サイバーダインは当初この土地に「革新的医療産業創出推進拠点」を川崎市の支援を受けながら設置する予定だった。同社が15年5月に東京都の「東京のグランドデザイン検討委員会」に提出した資料を見ると、奇妙なデザインの物件が予定されていたようだ(上画像)。ところが、16年度に事業開始の予定が同年11月に計画変更。17年1月19日にあった川崎市議会の議事録によると、総事業費が113億円から146億円に膨らみ、事業開始が18年度にずれ込んだ。
■さらにサイバーダインは17年11月公表の18年3月期第2四半期決算で〈2020年の東京オリンピック前の建設コスト増大を鑑みて、計画を再調整しております〉と、さらなる計画変更を示唆。事業開始予定日が過ぎた現在も予定地が更地のままで、建築計画のお知らせ看板すら立っていない。
■問題は、サイバーダインに残された時間が少ないということだ。URに取材したところ、「契約の約定の中に、引き渡しから5年以内に建設を完了していただくという約定があります」という。すると今年10月までに上記施設を竣工させなければならないか、あるいは施設の建設自体を諦めるという選択肢もあるかもしれない。しかし、ハシゴを外された県知事や市との関係はどうなるのか。
■殿町での計画が進まない中で、驚くべきことに、サイバーダインは15年12月、さらに広大な茨城県つくば市学園の森2丁目周辺の土地84,057㎡の取得に乗り出した。茨城県が所有する土地で、県がつくば国際総合戦略特区の推進のための企画提案型による公募を実施し、サイバーダインのみが応募した。サイバーダインはここにロボット複合施設「サイバニックシティ」を建設するという。同社が計画しているサイバニックシティ構想のイメージ図が下のようなものだ。
■高齢者施設、国際連携病院、ホテル、巨大なオフィスビルの4棟からなる「ロボットテーマパーク」である。この土地も未だに更地で着工されていない。茨城県によると、土地の引き渡しから3年以内に建設に着手することが約定としてあるが、まだ引き渡しはされていないという。「15年12月の仮契約で売買代金66億円のうち、56億円は支払われたが、サイバーダイン社が延納を行ない、17年3月、18年3月、19年3月の分割払いを行なっている」(担当者)。したがって、土地取得の契約の締結から3年経った今も手付かずのままなのだという。
■県の担当者によると、サイバーダインは延納せずに早期に代金を振り込み、引き渡しを完了することも可能とのことである。年商15億円前後の事業規模に比して多額の現金(100億円前後)を有しており、早期に取得すればよいものを、それをあえて延期しているのはなぜだろうか。
■学園の森は準工業地域であり、仮に建蔽率60%、容積率200%として、建築費の坪単価を150万円とすると、単純計算で450億円規模の建築費がかかる。サイバーダインの直近の財務諸表を見ると、設備投資に投ずることができるのは現金と有価証券合わせて約300億円程度である。そもそも殿町の計画で140億円超の設備投資を行う上に、一体いくら「サイバニックシティ」に投資する予定だったのか、サイバーダインは明らかにしていない。
■当サイトは昨年7月、サイバーダインに〈2015年12月に茨城県からつくば市の土地約84,000㎡を取得する契約を締結し、同所に複合施設「サイバニックシティ」を整備するとのことでしたが、当初計画(竣工予定、総工費等、自治体との契約概要等)、及び現段階の進捗状況をお教えください〉と取材したところ、同年8月〈昨年度、茨城県が公募した「平成29年度ロボット社会実装モデルゾーン事業化検討事業補助金」等によりサイバニックシティの調査検討を行い、引き続き実現に向けた検討を進めております〉と回答。11月に再取材したところ、〈具体的な予算額や竣工時期については当社から対外的に公表しておりません〉と口を閉ざす。
■サイバーダインの事業は縮小している。当期決算を見ると、ロボットスーツ全体の導入件数は第2四半期で2,292台(前年同期1,955台)と増加しているにもかかわらず、売上高は752百万円(前年同期761百万円)と減収している。これは、サイバーダインのロボットスーツの中でレンタル料が比較的高かったHAL福祉用下肢タイプの導入件数が18年3月期第1四半期の423台をピークに、19年3月期第2四半期時点で371台と減少しているためと思われる。事業が伸び悩む中で、川崎、つくば市に巨大施設をつくるためには、外部から大規模な資金調達を行う必要があるのではないか。
(文中敬称略)