■日本を代表する企業、東レ株式会社(社長・日覺昭廣)の環境・エンジニアリング事業セグメントの水処理システム事業部が、2017年3月期から18年3月期にかけて、不良在庫を押し込み販売することによる売上の過大計上を敢行した疑惑が浮上している。東レは今年2月12日、問題の取引に関与した社員が、商品の買戻義務や連帯保証義務を定めた書類を無断作成し、有印私文書偽造・同行使罪に該当する行為をしたとして、昨年11月に懲戒解雇をしていたことを公表している。しかし、当サイトの取材では、一連の不正取引疑惑は社員1人の処分で済む話ではない。
■当サイトが入手した情報によると、東レ水処理システム事業部は2017年6月29日、コンサルティング会社オリエントコミュニケーション株式会社(社長・小黒康夫、以下オリエント社)に対して、井戸水対応小型水処理装置などの在庫の「引き取り要請」を行い、428百万円でオリエント社に取得させていたことが分かった。東レ水処理システム事業部がオリエント社に宛てた17年7月20日付「確約書」には次のように記されている。
■〈弊社が御社宛てに依頼した2017年6月29日付け「小型水処理装置及び逆浸透(RO)膜予備品等」の弊社在庫の引き取り要請に基づき、御社がご購入頂いた在庫商品をアジア・アフリカ市場に輸出するに当たり、万一、御社が上記日付より1年以内に完売出来なかった場合は、弊社が残数量の如何に関わらず残在庫を全て弊社責任で御社より買戻し、残価格をお支払い申し上げます〉
■一般的に、企業が売上の先行計上など、時期尚早な収益認識を行う際に使われる手法に、サイドレターと呼ばれるものがある。商品販売に際して買戻し特約などの条件を付け、場合によっては売上計上後に売上の事実の一部ないし全部が無効になってしまうような裏の取り決めである。今回、東レ側の「要請」によって実現したオリエント社への売上は、上記「確約書」によって、オリエント社が在庫を捌けなかった場合、翌期に買い戻されることとなる。東レが差し入れた「確約書」はサイドレターの典型だ。この手法は10年以上前から認知されているが、今の時代にも罷り通っていたとは。
■更なる問題は、オリエント社に支払能力がないことだ。オリエント社は小黒の個人会社であり、売上高はせいぜい1千数百万円程度である。16年、17年は債務超過である。4億円の決済をできる会社でないことは一目瞭然である。しかし、なんと、東レはオリエント社に債務保証をして、購入代金を借入させていた。
■前出「確約書」と同日に東レを甲、オリエント社を乙とする「業務協力協定書」がある。この2条(在庫買取販売について)には、次の4つの条項が定められている。
- 1.甲は,甲の代理店であるトレックスジャパン株式会社に所有させている在庫製品を特別値引き価格で乙に販売する。
- 2.乙が本製品を購入する際に外部資金導入が必要な場合,甲はその外部資金導入契約の際の連帯保証人となる。
- 3.乙が本製品を購入し営業活動を開始し1年が経過した際に販売できなかった本製品があった場合,甲は別紙買取確約書に基づき本製品を買取る。
- 4.甲は乙が本製品を販売するにおいて,本製品が円滑かつ迅速に販売できるよう営業的支援を行う。
■実際、オリエント社は上記東レの在庫引き取りから2か月半経った17年9月中旬、ソーシャルレンディング会社から借入を行っているが、その連帯保証人に東レが名を連ねている事実がある。この借入の返済期日は18年3月であったが、償還することができず同年12月にロールオーバーされている。
■実は金融筋の間で「東レ保証案件」として、オリエント社への貸付案件が昨年から出回っていた。金融屋を小黒と共に訪ね歩いていたのが、2月12日付リリースで11月に懲戒解雇された東レ社員である。この東レ社員は日覺の委任状や印鑑証明を持ち歩き、方々で東レの連帯保証を約束しオリエント社に貸付させていた。東レとしてはリリースにより、東レの連帯保証は社員1人が勝手にやったもので、無効だと言いたいのだろう。
■しかし、東レによるオリエント社への「在庫引き取り要請」に端を発する一連の取引は、東レが公表したような社員個人によるものではない。なぜなら17年7月20日付「確約書」、同日付「業務協力協定書」に押印しているのは、上記社員の前任者で当時の水処理システム事業部長だからだ。東レによる借入の連帯保証はこの部署で脈々と続いていたものではないのか。仮に、東レの言う通り、全ての書類を社員一人が偽造していたとしたら、それはそれで驚くべきことである。17年中旬から1年半にわたり、社長の実印を不良社員がほしいままにするなど、東レほどの規模の会社では無論考えられないが。
■すでに述べたことを整理すると、オリエント社が水処理装置を取得したのは東レの「要請」によるものであり、オリエント社の実態は小黒の個人会社である。その会社の支払能力を超越する規模の売掛金決済の資金調達も東レが保証しているのである。これは架空売上計上の手口(借入金の売上計上)に似通っている。
■ところで、関係者によると、渦中にある東レとオリエント社の間を行き交ったこの水処理装置、本来はバングラデシュにて使用される予定だったという。しかし16年7月、邦人が犠牲となったダッカにおけるテロ事件を受け、その計画がとん挫。東レの手元に置いておくわけにいかず、数社を転々とする中で、オリエント社に流れ着いたのだ。つまり、17年3月期、18年3月期のいずれかで、売上の過大計上が敢行された可能性が高い。オリエント社は取材に「お答えすることができない」とした。東レに対しては26日に質問書を送付したところ、本日回答があり、告訴状の提出をしたことだけを認めたが、そのほかの事実確認を拒んでいる。(文中敬称略、つづく)