■昨年暮れから関係者の間で話題となっていた、東証一部エイチ・アイ・エスの会長・澤田秀雄が、14年に東証一部に再上場したリクルートホールディングス(社長・峰岸真澄)の普通株式を時価を大きく下回る価格で取得できるという架空の投資話を信じ、50億円を詐取された事案。既に『現代ビジネス』(講談社)が詳報しているが、民事訴訟などの当事者となっているのは別の人物で、澤田は表に出ていない。しかし、当サイトが得ている情報では、澤田は、架空の投資話に関与したメンバーの1人であるH(イニシャル)と直接、リクルート株取得にかかる業務委託契約を締結しており、資金を提供しただけでなく交渉の前面にも出ていた疑いがある。下記にHの実名を除いた契約書の全文を掲載する。
■詐欺話の筋書は、創業者の江副浩正が関連する財団にデポジットを振り込めば、財務省が持つリクルート株を廉価取得できるというものである。およそ正規の取引とは言い難いし、仮に財務省がそのような株式を保有しているのであれば、時価との差益は国庫に帰属すべきものであるだろう。この事案において、澤田は詐欺話に騙された被害者であるが、グループ会社ハウステンボスの上場を計画し、証券会社エイチ・エス証券のオーナーとして、証券市場に影響力を持つ人物が手を染めていい取引だったのか、疑問が残る。
■当サイトが入手した取引契約書は4月30日付で、その期間は5月8日までと極めて短い。『現代ビジネス』記事では、5月1日にHの口座にハウステンボスから50億円が振り込まれたが、銀行側が警戒したためスキームを変更したようである。したがって、その後の取引がこの業務委託契約に基づくものかは定かではない。また、1株1800円で「300百万株」を取得すると記載されているが、「3百万株」の誤記と思われ、契約の杜撰さを示している。当サイトは昨年12月、エイチ・アイ・エスに対してこの業務委託契約の存在等について取材したが、今年1月に「弊社、弊社子会社、その取締役に係る個別の取引に関するご質問、お申し入れに対する回答は、差し控えさせていただいております」と拒否した。
(文中敬称略)
業務委託契約書
澤田秀雄(以下「甲」という)と【 H 】(以下「乙」という)とは、甲の乙に対する業務委託に関し、下記の通り契約(以下「本契約」という)を締結する
第1条(業務委託等)
1.甲は、乙に対して、以下に定める業務(以下「本業務」という)を委託し、乙はこれを受託する。
(1)甲が指定する株式会社リクルートホールディングスの普通株式300百万株(以下「対象株式」という。)を1800円/株で購入し、その後権利移転がされることを確認したうえで、甲の指定する証券会社にその株式の時価の15%Discount以内で売却する。
(2)前各号に定める業務に付随する業務
(3)その他、甲乙間で別途合意した業務
2.甲は、必要に応じ、乙が本業務を行う際に必要となる備品を貸与する。
3.甲は、本契約期間中、甲乙協議のうえ、乙に委託する前項の業務の範囲を変更することができる。
第2条(報告)
甲は、乙に対して、必要に応じ、本業務の状況につき報告を求めることができる。
第3条(再委託の禁止)
乙は、甲に事前に通知することなしに、本業務の全部または一部を第三者(以下「再委託先」という)に再委託してはならない。なお、乙の事前の通知の有無にかかわらず、乙による再委託先の仕様は、乙の責任において行い、再委託先の責めに帰すべき事由については、すべて乙の責めに帰すべき事由とみなす。
第4条(秘密保持)
1.乙は、本業務の履行過程において甲より受領するあらゆる情報を秘密情報として厳にその秘密を保持し、本業務遂行の目的のみにしようする。乙は、本業務遂行のために必要な範囲で弁護士、税理士、公認会計士に開示すべき場合(これれの者にも本条と同じ義務を課すことを前提とする。)を除き、甲の同意なく、第三者に対しかかる秘密情報を開示又は漏洩してはならない。但し、以下のいずれかに該当する情報については、秘密情報に該当しないものとする。
(1)甲から提供又は開示された時点で、既に公知となっていた情報
(2)甲から提供又は開示された後、自己の責めによらないで公知となった情報
(3)甲から提供又は開示された時点で、既に甲に対して秘密保持義務を負うことなく保有していた情報
(4)法律又は契約に違反することなく第三者から提供又は開示された情報
2.本契約が終了した場合でも、本条に規定する守秘義務は、本契約から将来に渡り効力を有するものとする。
第5条(権利義務の移転禁止)
甲及び乙は、あらかじめ書面により相手方の承諾を得なければ、本契約に定める自己の権利または義務を第三者に譲渡し、または担保に供することができない。
第6条(契約の解除)
1.甲または乙は、他の当事者が次の各号の1つに該当したときは、催告なしに直ちに、本契約の全部または一部を解除することができる。
(1)本契約に違反し、相当の期間を定めて相手方に対して、その是正を求めたにも関わらず、相手方がその違反を是正しないとき
(2)相手方の信用、名誉または相互の信頼関係を傷つける行為をしたとき
(3)破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、その他倒産手続開始の申立があったとき
(4)差押え、仮差押え、仮処分、競売の申立、租税滞納処分その他これに準ずる手続きがあったとき
(5)支払停止もしくは支払不能に陥ったとき、または、手形または小切手が不渡りとなり、手形交換所より銀行取引停止処分を受けたとき
(6)合併、解散、清算、事業の全部もしくはその他重要な事業の一部を第三者へ譲渡し、またはしようとしたとき
(7)その他前各号に類する事情が存するとき
2.前項に基づく解除は、相手方に対しる損害賠償請求を妨げない。
第7条(有効期間)
1.本契約の有効期間は、平成30年4月30日から平成30年5月8日までとする。
2.期間満了により、本契約が終了する場合には、甲乙協議のうえ、本業務に関する清算業務を行う。
3.甲は、第1項の規定に関わらず、1週間前までに乙に対して書面により通知することにより、本契約を解除することができる。
第8条(反社会的勢力との取引排除)
1.甲及び乙は、次に定める事項を表明し、保証する。
(1)自己及び自己の役員・株主(以下「関係者」という)が、暴力団、暴力団関係企業もしくはこれらに準じる者又はその構成員(以下総称して「反社会的勢力」といいます)でないこと
(2)自己及び自己の関係者が、反社会的勢力を利用しないこと
(3)自己及び自己の関係者が、反社会的勢力に資金等の提供、便宜の供給等、反社会的勢力の維持運営に協力又は関与しないこと
(4)自己及び自己の関係者が、反社会的勢力との関係を有しないこと
(5)自己が自ら又は第三者を利用して、相手方に対し、暴力的行為、詐術、脅迫的言辞を用いず、相手方の名誉や信用を毀損せず、また、相手方の業務を妨害しないこと
2.甲及び乙は、相手方が前項に違反したと認める場合には、通知、警告その他の手続を要しないで、直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。この場合、相手方は他方当事者に発生したすべての損害を直ちに賠償するものとする。
第9条(合意管轄)
この契約に関する紛争については、訴額に応じて東京地方裁判所又は東京簡易裁判所を第1審の専属的合意管轄裁判所とする。
第10条(協議)
本契約の定めにない事項及び疑義が生じた事項については、両当事者協議のうえ決定するものとする。
この契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各1通を保有する。
平成30年4月30日
甲: 澤田 秀雄
乙: 【 H 】