■お笑いタレント「ロバート秋山」を広告塔にした旅行サイト『エアトリ』の運営等、オンライン旅行事業を手がける東証一部エボラブルアジア(社長・吉村英毅)の業績が芳しくない。同社は昨年5月、競合のオンライン旅行大手DeNAトラベルを買収するなど、水平的統合によりスケールメリットを得るシナリオもあったと思われるが、旅行事業の利益率は低迷している。競合他社M&Aに乗り出す前の17年9月期頃までセグメント利益率は30%前後であったのにも関わらず、近年は1%台に落ち込んでいる。同社は決算で広告費等の先行投資による利幅の低下を強調しているが、実際は過年度のM&Aが上手くいっていないからではないか。
■最近のエボラブルアジアの収益の柱は投資事業である。2018年9月期に会計基準を変更し、有報によると日本基準では連結の経常利益が605百万円の赤字だったものが、国際会計基準の適用により営業利益1,229百万円と大幅に黒字化している。同期はオンライン旅行事業やITオフショアなど従前の事業による収益だけでは赤字だが、有価証券の評価益1,288百万円や負ののれん発生益371百万円が加わり、営業利益を黒字にした。2019年9月期第3四半期も投資損益166百万円が加わることで営業利益の黒字を維持した。
■エボラブルアジアが投資事業やM&Aに傾注しはじめたのは17年9月期第3四半期頃である。同期第2四半期時点では流動資産に計上されている投資有価証券は109百万円、のれんは89百万円であったが、その後徐々に残高を増やし、19年9月期第3四半期には投資有価証券を含む「その他の金融資産」は4,649百万円、のれん及び無形資産は5,451百万円に増加している。
■こうしたM&A等の原資は借入で調達されている。エボラブルアジアは17年7月にクレディ・スイス証券、18年9月にメリルリンチ日本証券に対して資金調達を試みているが、株価の低迷などにより思うようにいかず、借入によりM&Aを推し進めた。17年9月期第2四半期の連結有利子負債は332百万円だったが、2019年9月期第3四半期までに11,673百万円までに増加している。この中には買収したDeNAトラベル(現・エアトリ)の既存の借入約50億円も含まれるので、実際の増加額は約50億円程度であると思われる。
■エボラブルアジアは国際会計基準を適用しているのでのれんの定期償却がなく、のれん残高の多い同社の業績を後押ししている。しかし、減損が認識されると一括償却となるため、ひとたび業績悪化となれば巨額損失を結果するリスクがある。
■エボラブルアジアがこの間に買収した案件の中で大きいのが、17年11月に取得した㈱エヌズ・エンタープライズと、18年5月に取得した前出・DeNAトラベルである。エヌズ・エンタープライズは日本航空の「専売認可代理店」であることが適時開示で謳われたが、日本航空への取材によると、エヌズ・エンタープライズとの契約は一般的な代理店と結ぶ「国内線旅客取扱代理店契約」であり、“専売”であるとして他の代理店によりも優位性があるわけではないという。
■エヌズ・エンタープライズ買収時の開示では、過年度の売上高は40億円前後で推移し、直近16年9月期の純資産は99百万円であった。しかしエボラブルアジアの有報の注記によると、買収時の純資産は△87百万円の債務超過で、18年9月期の売上高は1,379百万円、損益は72百万円の赤字であった。開示の売上高はネット売上であるため、グロスの売上計上となった際に一定の差があると思われるが、買収後の業績が過年度より悪化している可能性がある。エヌズ・エンタープライズに係るのれんは約10億円計上されている。
■DeNAトラベルについては、エボラブルアジアが取得する直前に、過年度の原価計上漏れの修正などの影響で18年3月期に19億円の赤字を計上していた。エボラブルアジアの開示では赤字計上前の決算しか示されていない。
■DeNAは当サイトの取材に7月、この修正について「DeNAトラベル(当時)の一部取引に係る原価計上漏れがあり、その修正処理として872百万円を費用処理いたしました。連結決算への影響は軽微でした。従前より旅行業の業務システム上のデータと会計上の勘定残高の整合性に課題があり、補正処理等の対応を行っておりました。その抜本的な解決のため、会計システムの刷新、データ入力の精緻化、人員補強等の施策を行う中で、追加計上すべき費用を把握するに至りました」と回答している。
■エボラブルアジアは買収後、DeNAトラベルの黒字化に成功した、とリリースしている。だがその直前の買収時に、公正価値評価により約20億円を減損され、DeNAトラベルは1,525百万円の債務超過となっていた。これによりDeNAトラベルに係るのれんは約27億円計上されている。エヌズ・エンタープライズ、DeNAトラベルの両社は債務超過会社だったのであり、買収の時期と、オンライン旅行事業セグメントの利益率低下の時期を見れば、「赤字会社買収」で利益率が低下している可能性がある。
■さらに今後の資金繰りに懸念がある。前出の通り、エボラブルアジアの損益上の黒字は投資事業での有価証券の評価益が主で、資金が伴わないものである。営業キャッシュフローは18年9月期で527百万円、17年9月期で218百万円と損益上の利益額(当期利益18年1,048百万円、17年834百万円)に比して少ない。
■しかしエボラブルアジアはM&Aなどに費やした有利子負債を抱えている。有報の金融負債の期日別残高の注記によると18年9月期時点で1年以内に返済予定の有利子負債は60億円超あり、長期借入金の返済額も毎年約10億円規模で返さなければいけない。本業で返済資金を稼げない中で、新たな借換か、より条件の悪いエクイティファイナンス実施が必要になってくるのではないか。
(文中敬称略)