創業者と訴訟沙汰の東証1部ひらまつ、利益相反取引の解消巡りPEファンド・アドバンテッジパートナーズと創業者が決裂か


■高級フレンチレストランで知られる東証一部ひらまつ(社長・遠藤久)が創業者との紛争に揺れている。日本経済新聞は9月4日、同社創業者で12%を保有する筆頭株主の平松博利が、ひらまつとのコンサル契約を巡り12億円の損害賠償請求を提起すると報じ、ひらまつは10月5日、訴訟の詳細を適時開示。平松側との業務委託契約を解除した経緯など、創業者との“決別”の一端を明かした。コロナ禍という最悪のタイミングでの内紛の発端となった、ひらまつと創業者・平松の過年度の取引を振り返ると、ホテル開発に絡む多額の業務委託費など、癒着ともとれる利益相反取引が浮き彫りになる。
■平松は、16年3月期までひらまつの代表取締役を務め、19年3月まで会長の立場にあった。16年に代表を降りた際には5億円もの“創業者功労金”が支払われている。この巨額の功労金は、会社の発展に寄与したことをねぎらうだけでなく、代表から降りていただき、会社経営は後の世代に任せてもらう意味合いも含まれていただろう。
■だが、平松が代表を降りた後は、むしろ公私混同が加速したように見える。平松の会長就任に合わせて、ひらまつはリゾートホテル開発に乗り出し、三重・賢島、熱海、仙石原、沖縄などのホテル建設に着手した。この頃から、平松が16年7月に設立した個人会社「ひらまつ総合研究所」への“業務委託費”の支払いが目立つようになる。17年3月期は1億7千万円、18年3月期は2億8千万円、19年3月期は4億1千万円、20年3月期は5億5千万円(ホテル事業に係るコンサルティングのみ)と、年々増加傾向にある。
■平松への過年度の業務委託費は合計14億円にのぼる。大半はホテル開発に係るコンサルティング名目と思われるが、その金額は過大感が否めない。ひらまつがこれまで開業したホテルの投資額は、賢島がおよそ12億円、熱海が13億円、仙石原が18億円、沖縄が23億円、京都16億円と、合計82億円。これら開業したホテルの投資額に対して、約17%に匹敵するコンサル料が支払われていることになる。ひらまつは20年3月期以降にも軽井沢、京都、那須で3棟、総額107億円のプロジェクトが計画中であり、平松側にこれからも相当なコンサル料が流れ込むことが予定されていただろう。
■ひらまつはホテルの開発費用を借入や自己株式の放出により調達している。しかし、ホテル開業後のひらまつの連結売上高はほぼ横ばいか、むしろ減少。資産効率は低下し、ROAはホテル開業前の16年3月期は10%だったが、以降は半分以下に落ち込んでいる。平松への多額のコンサル料を正当化しうる業績は上がっておらず、むしろ財務の悪化を招いたのが現状だ。
■さらに19年1月には、17年9月に京都にオープンしたばかりの「レストランひらまつ 高台寺」「高台寺 十牛庵」を平松に譲渡してしまう。しかも譲渡代金約12億円の大半が、不可解にも未だ未収となっている。譲渡代金の大半である9億円は20年3月期第1四半期時点でも、長期未収入金として計上されている。この店舗の譲渡や譲渡代金の猶予は、個別に開示されることなくひっそりと行われているから不可解だ。
■このようにホテル開業に係る多額のコンサル料や、店舗の譲渡を巡る不可解な取引は、平松側にとって都合がよく、会社としてはマイナス面が大きい。こうした利益相反取引は、今年6月まで代表取締役社長に就いていた陣内孝也(現執行役員)をはじめとした経営陣が、平松から後継に指名されたことに恩義を感じて敢行していたと思われる。
■この点、10月5日公表の現経営陣による平松との訴訟に係る開示を見ると、〈2020年6月26日に就任した当社新経営陣は、コンプライアンス重視を経営の基本に掲げていることから、その一環として、今回請求の対象となっている取引その他の当社が過去に締結した契約関係の妥当性について検証を行っている〉と、利益相反や癒着は新しい経営陣が清算したように読める。
■現在のひらまつの経営陣はPEファンドのアドバンテッジパートナーズが送り込んでいる。アドバンテッジは19年8月にひらまつと事業提携し、約20億円の転換社債型新株予約権付社債(CB)を引き受け平松に代わる同社のオーナーとなった。昨年10月にはアドバンテッジから大沢祐子(現・執行役員)、古川徳厚らが送り込まれている。今年6月には陣内を代表から降ろし、アドバンテッジが推すプロ経営者の遠藤が就任した。20年3月期までは一部を容認していたようだが、代表交代を機に、一気に平松との取引を切りに行ったのだろう。
■つまり今回の訴訟の背景事情には、事業継承に入ったアドバンテッジと創業家の平松との間で、利益相反取引の解消を巡る対立があると思われる。平松はアドバンテッジがCBを行使したとしても、10%を保有する主要株主として残るため、今後は法廷外でも紛争が勃発する可能性がある。
(文中敬称略、つづく)

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