コロナ禍でホテル事業が苦境の東証1部and factory、得意先の不動産抱え財務悪化に拍車


■18年9月にマザーズに新規上場し、今年2月に東証一部に市場変更したand factory(目黒区、社長・青木倫治)の業績が悪化している。同社は漫画アプリ開発事業と、訪日外国人向けホステル『&AND HOSTEL』の運営をメインとするIoT事業の二つのセグメントを有しているが、新型コロナウイルス感染拡大により&AND HOSTELの全店舗が一時、休業に追い込まれる事態となり、IoT事業の売上高は前期約20億円から約3億円と8割減。さらに、昨年末に借入で取得した不動産が財務状況の悪化に拍車をかけている。
■and factoryの19年8月期の業績は売上高3,916百万円、営業利益512百万円で、総資産3,040百万円、自己資本比率59.1%。ポートフォリオの大部分は現金と売掛金で、有利子負債は少ない安定した財務状況にあった。同社のホテル事業は自社で物件を保有せず、ホテルオーナーからシステム開発や運営を受託するもので、バランスシートリスクが少ないビジネスモデルと言えた。
■ところが、昨年末頃から不動産の取得を加速し、有利子負債は前期の551百万円から3,811百万円に。20年8月期は売上高2,946百万円、営業利益△202百万円と減収・赤字での中、総資産は6,323百万円と倍増し、自己資本比率は22%に落ちた。
■and factoryが現在保有している不動産は当サイトが把握しているもので3件ある。19年4月に取得した台東区下谷2丁目の土地は、&AND HOSTELを建設し、今年4月に開業する予定だったようだ。しかし、ホテルが開業したとの情報は聞かない。and factoryは土地代金と建設費あわせて6億円をりそな銀行から調達している。
19年12月には、不動産会社トーセイから台東区下谷3丁目に所在する12階建てオフィスビルを取得している。取得価額は約12億円と見られ、全額をみずほ銀行から借り入れている。しかし、当サイトが今年10月末頃に現地を確認したところ、同ビルの全フロアに人影はなく、稼働していないと思われる。
■注目は、昨年12月に取得した大阪・中央区の8階建ての物件の物件だ。取得価額は約10億円と見られ、三井住友銀行から借り入れた。この物件では、19年11月から&AND HOSTEL Shinsaibashi Eastが開業しているこのホテルは現在も休業中。前述の通り、and factoryは基本的に自社でホテルを所有せず、一時的に物件をand factoryが不動産を取得することはあるが、ホテル開業後は第三者に売却している。しかし、大阪・中央区の物件は、ホテル開業後にand factoryが引き取っているのだ。
■この点は、物件の仕入先がand factoryの得意先であることが関係していると思われる。この物件の仕入先は㈱ビッグという神奈川県・葉山の不動産会社である。and factoryが上場後、最初の決算である18年8月期の連結売上高1,916百万円の約25%を占める496百万円を販売した相手方だ。販売したのはand factoryが持つ台東区西浅草の物件で、登記簿によると、取引日は18年7月17日とされていることから、期末ギリギリの取引だったことが伺える。
■ビッグとand factoryは関係が深い。19年11月に開業した&AND HOSTEL Minamisenjuの物件オーナーであり、19年2月に開業した&AND HOSTEL Minowaのオーナーでもあったが、後者のホテルは西浅草の物件と共に別会社に売却されている。and factoryは親密先から物件を引き取ったために、今日の財務状況の悪化を招いたのではないか。
■&AND HOSTELが入居する物件を取材すると、現在営業中の8物件のうち4物件は、過去にソーシャルレンディングの『ラッキーバンク』が開発していた不動産であることが分かった。ラッキーバンクは8~11%の高い利率で投資家から最大120億円もの資金を集めていたが、貸付先の大半がラッキーバンク運営者の親族会社向けで、担保不動産の価値が水増しされていたことが発覚し、18年3月に金融庁から行政処分を受け破綻した。
■&AND HOSTELの物件オーナーは、ラッキーバンクの関係会社から相場より高値で物件を取得してしまっている恐れがある。ただ、and factoryはあくまでホテル運営の委託を受ける立場なので、高値掴みのリスクから切り離されているようだ。
■and factoryは東証マザーズ上場イグニスと関係が深い。創業者はイグニスと同様にサイバーエージェント系のシーエー・モバイル出身。イグニスからスマホアプリを取得して事業をスタートさせ、同社の資本が入っている。19年8月期からは、イグニスで12年から19年までCFOだった山本彰彦が社外取締役に就任している。当サイトはイグニスが、増資の調達資金を資金使途にない先に貸し付けていたことを指摘している。なお、山本は、東証一部DLEにおける粉飾決算で引責辞任した同社元CFOらと共に、会計コンサルティング会社を設立している。
(文中敬称略)

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