■高級フレンチレストラン運営の東証一部ひらまつ(社長、遠藤久)が、創業者・平松博利と争っている訴訟に関連し、平松の個人会社「ひらまつ総研」とひらまつの間で行われた取引を検証するとして今年10月に設置された外部調査委員会(委員長・小林英明=長島・大野・常松法律事務所)が本日18時頃、調査報告書を公表した。
■報告書は平松側との様々な利益相反取引を認定している。まず、京都のレストランの売買。ひらまつは17年9月、京都に「レストランひらまつ 高台寺」「高台寺 十牛庵」の2レストランを開業するも、19年2月にこれをひらまつ総研に譲渡した。平松側からの働きかけによるものだったが、個人会社のひらまつ総研では信用力に問題があったことから、土地はひらまつが転貸してやり、譲渡代金は10年にわたる分割払い。その代金も、別途ひらまつ総研へ払っていた業務委託費を増額することで手当てしようとしていた。さらに8年後には譲渡代金を2億8000万円減額する“覚書”も締結していた。
■そして、ひらまつ総研へのホテル開発に絡む業務委託費。報告書によると、ひらまつ総研へのホテル関連の委託費は、17年3月期はホテル1件あたり2500~4500万円、18年3月期は総工費の2%程度とされていた。しかし、18年3月頃には2%相当から10%相当に大幅に増額され、上記のレストラン譲渡後には、平松側の資金繰りを支援するために16%に増額。さらに別に総工費の5%を払う契約を締結し、合計21%とすることが検討されていたという。ところが、委託費が高すぎるとして社外取締役などの反対にあい、増額は阻止された。
■ひらまつ総研へのホテル開発に絡む委託費は、具体的な成果物や、総工費の何パーセントといった計算根拠があるわけではなく、平松側の資金繰りなどの都合に応じて増減していたようである。例えば、ひらまつは16年7月15日に開業した「ホテル賢島」に関する業務委託費として2500万円をひらまつ総研に支払っているが、ホテルの引き渡しはひらまつ総研が設立された7月6日より前の16年6月末であり、ホテル建設にどのような貢献があったのか不透明である。
■18年3月頃の委託費の増額も、ホテル事業とはあまり関係ない事情で決まっていた。ひらまつの17年3月期は減収減益で、18年3月期も業績予想達成が難しかったことから、それを見た平松が当時の経営陣に、自身をCOO・最高執行責任者として呼び戻すことを提案。その条件として5年間で合計約11億5000万円の報酬を支払うことを提示したという。当時の経営陣は報酬の支払い方法をホテル開発委託費などの名目で行うこととし、約2%から10%への増額に繋がったという。
■調査委は当時の経営陣が長年、平松と〈師弟的人間関係〉にあり、平松の要求を拒絶できる土壌がなかったと述べている。報告書はホテル開発委託費や京都の店舗取引以外に、平松が会社が所有する高級車やマンションを退任後も私的に利用し続けているといった利益相反取引・会社私物化と言える行為を指摘した。
■なお、報告書によると平松側は今回の調査に協力していないようである。しかし一方で、平松側は一部マスコミには訴訟に至る経緯をリークしていた可能性が高い。この事案を最初に報じたのは9月4日20時配信の日本経済新聞である。同記事は〈ひらまつを、平松博利氏が経営するコンサルティング会社が訴えたことが4日、分かった〉と書いているが、原告のひらまつ総研が東京地裁に提出した訴状の日付は9月4日付である。この時点で訴訟が提起されていることを知りえているのは平松側だけであり、平松がリークしない限り日経が報じることは不可能だ。
■さらに社外調査委員会設置後も、『週刊新潮』11月5日号が「オーナーシェフvs.ファンド『ひらまつ』裁判の裏メニュー」と題する記事を掲載。記事では平松の代理人が〈平松さんが社長退任後も会社を私物化しているかのような不当な主張〉をしていると会社を批判していた。平松側と会社の対立は深まっている。
(文中敬称略)