■東証一部ネクシィーズグループ(4346)の過年度の有価証券報告書やコーポレート・ガバナンスに関する報告書に、関連当事者取引の開示に関する重要な不備があることが分かった。社長の近藤太香巳は“熱血社長”としてベンチャー企業家の間で知られ、特に幻冬舎社長・見城徹やAKBの秋元康、GMOインターネットの熊谷正寿といった“成功者”との交友関係を頻繁に誇示しているが、自社のガバナンスは改善すべき点が多いと言わざるを得ない。
■ネクシィーズは主に3つの事業で構成されている。中核はLED照明レンタルサービス事業(ライフアメニティ事業セグメント)で、飲食店や美容室などの店内の照明に、白熱灯などより費用対効果の良いLED照明を初期費用ゼロで導入させ、手数料収入などを得る。2016年9月期連結売上高の構成比は約63%。その他、連結子会社に電子雑誌事業を展開するマザーズ上場ブランジスタ(ソリューションサービス事業)、着物教室の㈱ハクビ(文化教育事業)などがある。
■注目はライフアメニティ事業の販売先だ。2014年9月期の主要販売先は㈱コーウェルでセグメント売上高4,044百万円のうち1,187百万円(29.3%)だったが、2015年9月期からは東証一部上場のGMOペイメントゲートウェイ(GMO-PG)に代わり、セグメント売上高5,899百万円のうち2,917百万円(49.4%)。2016年9月期は、セグメント売上高8,958百万円のうちGMO-PGに対する売上高は7,279百万円(81.2%)にまで拡大している。
■販売先が数年でほぼ一社だけになったのである。この変化についてネクシィーズの過年度の有報には説明やリスクの開示は記されていない。ここで問題となるのが、GMO-PGとの関係だ。
■ネクシィーズには2014年9月期から熊谷正寿が社外取締役に就任している。GMO-PGで熊谷は代表権のない会長職にあるが、同社の51.6%を保有する親会社GMOインターネットでは代表取締役会長兼社長で、㈱熊谷正寿事務所と個人合わせて40%超を保有する筆頭株主だ。
■上場会社の役員個人や、役員が実質支配する会社との取引は「関連当事者との取引」として、重要性が乏しいなどの理由がない限り有価証券報告書で開示しなければならない。ところが、2015年9月期、2016年9月期のネクシィーズの有価証券報告書中の関連当事者との取引には、GMO-PGとの取引について開示がされていないのである。論点はGMO-PGが「関連当事者」に該当するかだ。
■「関連当事者の開示に関する会計基準」(企業会計基準第11号)は、関連当事者の範囲について次の通り定義している。〈「関連当事者」とは、ある当事者が他の当事者を支配しているか、又は、他の当事者の財務上及び業務上の意思決定に対して重要な影響力を有している場合の当事者等をいい、次に掲げる者をいう。①親会社 ②子会社 ③ 財務諸表作成会社と同一の親会社をもつ会社 ④財務諸表作成会社が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社(以下「その他関連会社」という。)並びに当該その他関連会社の親会社及び子会社 ⑤関連会社及び当該関連会社の子会社 ⑥財務諸表製作会社の主要株主及びその近親者 ⑦財務諸表作成会社の役員及びその近親者 ⑧親会社の役員及びその近親者 ⑨重要な子会社の役員及びその近親者 ⑩ ⑥から⑨に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社 ⑪従業員のための企業年金〉(下線は筆者)
■GMO-PGの議決権の過半数は、熊谷正寿が支配するGMOインターネットが保有しているという点で上記の⑩に該当すると考えられる。GMO-PGは最も金額の大きい販売先で重要性は当然ある。ここでネクシィーズが言い訳するならば、熊谷のGMOインターネットの持分が過半数に満たない(約40%)という点だろう。たしかにそうだ。
■しかし、会計基準第11号の17では〈関連当事者の開示については適切な開示を求める観点から、関連当事者の範囲は形式的に判定するのではなく、実質的に判定する必要がある〉と明記されている。熊谷はGMOグループの創業者であり、議決権の過半数は持っていないだろうが、実質的に同社において絶対的な地位にいると言える。ネクシィーズの関連当事者の範囲が、会計基準の趣旨に反することは明らかだ。
■同じ論理で言えば、ネクシィーズグループが提出した「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」も訂正しなければならない。例えば2016年12月27日の報告書では、社外取締役である熊谷と会社の関係についてのチェックリスト(a~k)に一切記載がない。だが、GMOインターネットの連結子会社であるGMO-PGと取引があるならば、d(上場会社を主要な取引先とする者又はその業務執行者)、e(上場会社の主要な取引先又はその業務執行者)、またはk(その他)に該当するはずだ。
■なお、前出の2014年9月期の主要販売先コーウェルについても、ネクシィーズが12%を出資し、取締役の大前成平、松井康弘が役員に就任しており、関連会社に該当する可能性が高いが開示はない。付言するとコーウェル社長・宮本健治は近藤の友人だ。GMOの熊谷も近藤が「くまくま兄さん」と呼ぶ親密な関係。こうした不備は単なる「把握漏れ」ではなく、意図的なものだろう。
■おそらくネクシィーズがGMO-PGに販売した財貨の内容は、LED照明レンタルサービスの顧客に対する5年間のリース債権である。このサービスの特徴は、5年のレンタル期間を過ぎたら照明の所有権が店舗側に移り、さらに5年経過する前に解約した場合に違約金などが発生しないというものだ。この点について、ネクシィーズの解約調整引当金の計上額から、リース債権がGMO-PGに譲渡された後も解約に関するリスクは依然ネクシィーズが負っている可能性が高い。
■当サイトは3月21日、ネクシィーズに対して上記のような内容に関する質問書を送付した。回答期限は本日17時であるが、ネクシィーズは「担当者不在」を理由に未だに送達確認さえしようとしない(無論、記録は保持している)。馬鹿馬鹿しい話だが、筆者が質問書をFAXで送信しようかと申し出たところ「弊社は広報のFAXを置いていない」(総務部)と言うのである。
■もちろんこれは嘘だ。2015年末に『週刊文春』が近藤のスキャンダルを報じた際の開示にはきちんとFAX番号が記載されている。先般、当サイトで子会社のブランジスタにおける風説の流布まがい行為を質した時も「お答えできない理由もお答えできない」と逃げ口上を弄したが、株価高騰を狙った情報の流布は積極的に行いながら、都合の悪い質問には逃げを打つ情報開示の姿勢は問題が多い。(続く)
(文中敬称略)
2017年1月27日付レポート:新垣結衣など所属のレプロエンタテインメント、マザーズ上場ブランジスタ「神の手」急騰相場で数十億の株式売却益を実現か