東証一部リンクアンドモチベーション、51億円で買収した「インタラック」に偽装請負と社会保険加入逃れの疑惑


link-i■活発にM&Aを展開している人事・労務コンサルティングの東証一部リンクアンドモチベーションは6月、投資ファンド・アドバンテッジパートナーズと組み、個別指導塾の「やる気スイッチグループ」を買収した。だが一方で、2014年にアドバンテッジから51億円で買収した株式会社インタラックに(当時のリリース)、開示されていない様々なリスクが潜在していることが当サイトの調べで分かった。インタラックの事業は構造的な課題を抱えているほか、不当な労務管理によって費用を抑えることで利益を大きく見せている疑いがあり、企業価値評価の妥当性が問われている。また、インタラック買収により発生した巨額ののれん減損リスクが浮上している。
■インタラックは全国の小中学校等にALT(外国語指導助手)派遣する、業界最大手企業だ。ALTとは、小学校や中学校の英語の授業で、日本人の担任と一緒に教鞭を執るあの外国人の先生だ。だがインタラックのALT配置事業は構造的に偽装請負(職安法違反)となるリスクを抱えていることは、投資家には知らされていない。
■ALTと教育委員会の契約形態は、外国青年招致事業(JETプログラム)、自治体による直接雇用、民間からの労働者派遣、民間への業務委託の4つ。インタラックは業務委託契約を締結することでALTを学校に派遣している。業務委託の場合、ほかの契約形態と違い学校の担任などがALTの勤怠管理をしたり、直接指示を出すことができない。下請け業者の労働者に発注者が指揮命令をするのは偽装請負となるからだ。
■具体的に何が指揮命令と判ぜられるのか。インタラックの労働者を組織するゼネラルユニオンが愛知県東海市と、中央労働委員会(労使紛争における最高裁的位置づけ)まで争った事件の命令書に一部判示されている。それによれば、学校の授業計画やカリキュラムに従った授業にALTが従ったり、授業中に生徒が理解できない文法や発音を担任の教師がALTに復唱させることや、ALTの授業の進め方への改善要求などだ。要は学校の教員はALTの授業中も授業のやり方や進め方に一切口を出してはいけないということだ。現実的にそのような英語の授業が正常に機能するとは考えにくく、請負契約でALTを配置している学校の多くで偽装請負が罷り通っている可能性が高い。
■学校が偽装請負というリスクを冒してまで請負で契約する理由は自治体の財政難等が考えられる。業務委託であれば、直接雇用やJETプログラムに比してコストも安く、雇用主となるリスクがない。「安かろう」で選ばれてきたわけだ。このような事情から、インタラックの創業者・新山靖雄が自民党の遠藤利明に政治献金(表に出ている額で955万円)を行い、その結果として2014年8月に文科省からALTの請負契約を是とする文書を出させた一件が昨年、毎日新聞に報じられたばかりだ。
ALT 統計2■現場が脱法状態であることに変わりわなく、将来的に請負契約のALTは淘汰が進んでいく可能性が高い。リンクアンドモチベーションはインタラック買収の開示の中で、文科省が「英語教育改革実施計画」を策定したことを理由に、需要が伸びることを主張している。しかし、近年のALTを巡る状況を見ると請負契約のALTの数は微増している一方、拡大が著しいのは学校近くの留学生などの「地域人材」である。
ALT 統計
■インタラックはもう一つ業務において重大な問題を抱えている。インタラックは労務管理においても脱法行為を行っていると指摘されており、結果として過年度の損益情報に大いなる疑いが浮上している。インタラックは過去、ゼネラルユニオンからの団体交渉を16回拒否し、不当労働行為として2010年に大阪府労働委員会から救済命令を出されている。労働組合の改善要求から逃げ続けていた理由の一つに、社会保険加入逃れがあったと考えられる。労働集約型産業における労務管理コストは時に、巨額の損失に直結する恐れがある。
■ゼネラルユニオンが公開している資料によれば、インタラックのALTは契約上の労働時間を「週29.5時間」とすることで、厚生年金保険法12条に規定されている週の労働時間が4分の3以下の労働者として、会社側が保険料の半額を負担しなければならない社会保険(被用者保険と厚生年金保険)に加入させていなかったという。だが実際のALTの労働時間はこれより長く、インタラックのALTと国が社会保険への加入を巡り争った裁判の判決(2015年、東京地裁)では、労働時間は35~40時間以上だと認定されているという。
■つまり労働時間を実際とは違う形で契約し、不適切に社会保険加入条件から外すことで、会社が負担すべき保険料を低く抑え利益をねん出していた疑いがある。問題は認識されていない費用の額だ。
■インタラックのALT募集要項を見ると平均月収は23万円~25万円と記されている。月収が24万円の場合、被用者保険料は約23,000円、厚生年金保険料は約42,000円で、半額を会社側が支払わなければならない。すると一人当たり年間約39万円のコスト増となる。
■インタラックに所属しているALTの総数は2500~2700人とされており、月収24万円×12×2500人で1年間の給与支払額を出すと、リンクアンドモチベーションのALT配置事業において計上されている売上原価計上額の約7,500百万円と近い。仮に2500人を追加で社会保険に加入させたのであれば、インタラックは最大で約10億円の社会保険料を費用計上しなければならない。
■なお2016年10月以降は、従業員500人以上の事業所の労働者は、週20時間以上勤務している場合、社会保険に加入させなければならなくなった。しかし、関係者によるとインタラックは施行の前年に北日本、関東北、関東中部、関東南部、関西東海、西日本と6つに分社化し、500人以上の事業所に該当しないようにしているという。
■過年度のインタラックの利益率は低い。リンクアンドモチベーションのインタラック買収に関する開示を見ると、直近の経営成績及び財務状態になぜか売上高しか載っていない。「売上高以外の経営成績及び財務状態につきましては、精査後に改めて開示致します」と注記されているが、未だに開示されていない。そこで官報にて照合したところ、過年度の損益情報は下記のようになる。
インタラック業績
■仮に社会保険料を適切に計上したのであれば、この薄氷のような利益率は大赤字となっていた可能性が高い。リンクアンドモチベーションはインタラックの企業価値評価にDCF法を採用したようだが、労務関係のデューデリジェンスを厳格に行えば、5100百万円という評価額は出なかったのではないか。また、インタラック買収により計上されているのれんは約3,948百万円とリンクアンドモチベーションの純資産の8割に相当し、社会保険加入義務のある対象者が増え業績が悪化した場合、IFRSを採用している同社の財務状況に大きな影響を与える可能性がある。
■上記のような疑念を基に、当サイトはインタラックに対して取材したところ、以下のような回答が寄せられた。

リンクアンドモチベーションの回答

●偽装請負となるリスクに関する認識
そのようなリスクが一般的に指摘されていることは弊社も認識しており、業務委託契約と派遣契約に応じて、明確にプロセスを分けて業務を管理すると共に、教育委員会にも契約・プロセスの遵守を求めております。業務委託契約の場合、当社からの指揮命令を徹底することにより、ご指摘のような偽装請負の発生リスクを最小化するように努めております。
●請負契約を締結している件数及び全体の割合
大変申し訳ございませんが、営業面における競争優位性毀損のリスクを鑑み、各契約件数ならびに請負契約の割合については非開示とさせていただいております。ご理解を賜りますようお願い申し上げます。
●インタラックの算定根拠及びフェアネス・オピニオンの有無
また、算定根拠についてですが、ディスカウンテッド・キャッシュフロー法を採用して企業価値評価を行っております。フェアネスオピニオンを取得した第三者機関名は、先方との契約により開示はできませんが、監査法人により客観性のあるフェアネスオピニオンとして監査に採用されており、十分な客観性に足るものと判断しております。
●労働時間を29.5時間としている事への批判についての認識
当社では、労働者との契約においては、学校側からの要望や受け持つ授業数が個々のALTにより異なるといった観点から、様々な労働時間で契約を結んでおります。労働者の個別の契約状況に従って、適切に労働者の社会保険加入に対応しておりますので、ご指摘のような批判には該当しないものと考えております。
●ALT配置事業セグメントに従事する労働者の社会保険加入者数
大変申し訳ございませんが、営業面における競争優位性毀損のリスクを鑑み、労働者の具体的な社会保険加入者数については非開示とさせていただいております。前述の回答の通り、労働者の個別の契約状況に従って、適切に労働者の社会保険加入に対応しておりますので、ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

(文中敬称略)

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