【続報】混迷するベインキャピタルによる広済堂MBO、監査役の「反対声明」全文


■ベインキャピタルがTOBを仕掛けている東証一部広済堂(社長・土井常由)のMBOを巡る状況が混迷してきた。17日の発表を受け、TOB価格の610円前後で推移していた株価は29日から上昇し、現在は710円前後で推移している。今月4日にはアクティビストとして知られる村上世彰の関連法人が大量保有報告書を提出、18日には社外監査役の中辻一夫がMBOに反対する声明をマスコミ各社に公表し、日本経済新聞や東洋経済などが記事にしている。そこで今回、当サイトもこの声明文を下記の通り公表する。
(文中敬称略)

▼監査役による反対声明
平成31年2月18日
各位
株式会社廣済堂
監査役 中辻一夫

株式会社BCJ-34による株式会社廣済堂株式(証券コード7868)に対する公開買付けに関する反対のお知らせ

第1 本公開買付けに関する意見の内容
私は、株式会社BCJ-34(以下、「公開買付者」といいます。)による株式会社廣済堂(以下、「廣済堂」といいます。)の普通株式(以下、「当社株式」といいます。)に対する公開買付け(以下、「本公開買付け」といいます。)に反対します。
また、廣済堂の株主の皆様におかれましては、本公開買付けに応募されないようにしていただくとともに、既に応募された株主の皆様につきましては、速やかに本公開買付けに係る契約を解除してくださいますよう、お願いします。

第2 本公開買付けに関する意見の根拠

1 MBOに生じやすい問題点
経済産業省が策定した「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」3~4頁には、一般的に、MBOは、取締役が株主から低い価格で会社の株式を購入することによって株主に不利益が生じることや、LBOを使う場合において過度なレバレッジによって会社に影響を及ぼす可能性を孕んでいることが指摘されています。
そして、同指針9頁には、MBOを行う場合、対象となる会社の側が、①企業価値の向上、②公正な手続を通じた株主への配慮を尊重すべきことが指摘されています。

2 本公開買付けの問題点
私は、本公開買付けには、次の問題点があると考えています。

(1) 本公開買付けによって廣済堂の企業価値が向上するか否かが不明であり、企業価値を毀損するおそれがあること
土井常由社長(以下、「土井社長」といいます。)を中心とする廣済堂現経営陣の体制は、平成30年6月に発足したばかりですが、そのわずか3か月後の9月上旬には、ベインキャピタルに対して非公開化を打診しました(廣済堂の平成31年1月17日付け適時開示「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」(以下、「本適時開示」といいます。)9頁)。
しかし、土井社長を中心とする現経営陣は、本公開買付けの後の経営方針について、「財務体質の強化の実施についても検討する予定」、「施策の実施についても検討する予定」などと抽象的かつ不明瞭なことしか述べていません(本適時開示9~10頁)。
また、本適時開示で公表されている事業計画は、17頁に記載されているものしかなく、加えて、これは過去に開示した「第3次中期経営計画(2017年~2019年度)「KOSAIDO Re-Innovation」」を下方修正したものであり、本公開買付けによりどのように企業価値を向上させようとしているのかを示したものではありません。
したがって、私には、土井社長を中心とする現経営陣が、本公開買付けによる具体的な企業価値向上策(将来キャッシュフロー)を開示しているように見ることはできません。
一方で、公開買付者は、本公開買付けに係る決済資金約152億円(=610円×24,913,439 株)及び第55期四半期報告書(平成30年10月1日~平成30年12月31日)8~9頁に記載されている既存借入金約200億円の返済に要する資金として、株式会社三井住友銀行から約341億円を借り入れる予定であり、廣済堂が、その連帯保証人になるとともに、保有資産に担保権を設定するとのことです(本適時開示4頁)。加えて、公開買付者が廣済堂と合併することになっているため(本適時開示20 頁)、廣済堂は、公開買付者が借り入れた約341億円の借入債務を負ってしまい(LBO)、廣済堂の有利子負債は、200億円から341億円に膨れ上がり、また、金利の利率も増加している可能性があります(借入条件については、開示されていません。)。
私としては、廣済堂現経営陣が、本公開買付けの後の具体的な企業価値向上策(将来キャッシュフロー)を、今までのところ示すことができていないように見受けられ、このように膨れ上がる有利子負債の返済を、事業の切り売り・解体によらずして、事業キャッフローにより返済することは本公開買付けによってかえって困難になると思われることから、これは、過度なレバレッジであると考えています。
これらの事情に鑑みれば、本公開買付けは、廣済堂の企業価値を向上させるどころか、かえって、毀損するおそれがあるものと疑わざるを得ません。そして、上記の点(本公開買付けによって、具体的にどのように廣済堂の企業価値は向上するのかという点や、約341億円に膨れ上がる有利子負債をどのように返済するのかという点。)について、本適時開示22頁以下に第三者委員会の答申書の内容が開示されていますが、ここにも、具体的な記載はありません。

(2) 公正な手続を通じた株主への配慮がないこと
廣済堂現経営陣は、本公開買付けに関し、本適時開示の前日の平成31年1月16日時点で、私を除く(3名中)2名の監査役には、事前に本公開買付けについて説明し、廣済堂現経営陣及び第三者委員会は、この2名の監査役が、本公開買付けに異議がないことを確認していました。その一方で、私に対しては、本公開買付けに係る取締役会が開催される13時のわずか約2時間前である11時に、突然、本公開買付けが行われるので賛同する予定であると告げ、私が意見形成をするために必要な資料も時間的余裕も与えませんでした。
そして、下記4のとおり、廣済堂の現経営陣及び千代田有子社外取締役(以下、「千代田社外取締役」といい、現経営陣と併せて「現経営陣ら」といいます。)は、私が同年2月5日付けで(千代田社外取締役に対しては同月8日付けで重ねて。)会社法第381条第2項に基づいて本公開買付けに関して報告を求めたのにもかかわらず、現時点に至るまで、一切報告していません。
このように、廣済堂現経営陣及び第三者委員会の委員も兼ねる社外取締役の行動には、監査役である私を恣意的に意思決定過程から排除しようとする意図が感じられます。

3 廣済堂現経営陣らの真の目的
廣済堂の現経営陣らがこのように問題があると疑われる本公開買付けに関して賛同意見を表明し、株主に応募を推奨する理由について私なりに検討したところ、私は、廣済堂の現経営陣らが次の意図を有している可能性があると考えています。

(1) 現経営陣らの自己保身目的
平成30年7月2日付け臨時報告書によれば、同年6月28日に開催された定時株主総会において、「第1号議案 剰余金処分の件」の賛成の割合が95.19%であったことに対し、「第2号議案 取締役7名選任の件」については、土井社長を除く取締役は、賛成の割合が71~73%台にとどまり、土井社長に至っては、賛成の割合が66.18%です。
このように、発足当初の廣済堂の現経営陣らに対する株主からの信任の程度は高いものではないところ、仮に、公開買付者による本公開買付け及びその後の一連の取引で、公開買付者が廣済堂の株式を100%取得すれば、廣済堂の現経営陣らは、公開買付者に役員選任をさせることによって、その地位に留まり続けることができます。
実際、廣済堂は、本適時開示において、「公開買付者としては、土井氏及びベインキャピタルが指名する取締役を合わせた人数が当社の取締役の過半数となるように、土井氏及びベインキャピタルが指名する者を当社の取締役に就任させることを考えている」と記載していて、本公開買付け後、廣済堂現経営陣が継続して役員として選任されることが予定されている可能性があります。
また、廣済堂の第三者委員会答申書10頁には、「最後に株主を巡る課題としては、業績が低迷する中で、一部の大株主から、平成30年6月28日開催の貴社定時株主総会につき総会検査役の選任が申し立てられるなど、友好的な関係を構築しているとは言い難い状況である。」「常に買収リスクに晒されていると言える。」と記載されていて、これらのことが本公開買付けを行う目的を正当化する事情であるかのようにも読み取れます。
しかし、廣済堂現経営陣らは、本適時開示22頁以下において答申書の内容を載せながらも、答申書に記載されている、大株主と友好的な関係を構築しているとは言い難い状況であることや、常に買収リスクに晒されていることを、本適時開示には載せていません。そもそも、現時点において、具体的な企業価値向上策も持たず、キャッシュフローによる返済の具体的な見込みもないまま、本公開買付けによって当社に過大な有利子負債を負担させようということであるならば、土井社長が本公開買付けを行い、その余の廣済堂現経営陣らがこれに賛同する真の目的は、大株主対策又は買収リスクの回避にある可能性があります。そうすると、本公開買付けは廣済堂現経営陣らの保身を図ることが目的であることが疑われます。

(2) 公開買付者による廣済堂の廉価買収目的
廣済堂現経営陣らの自己保身には、ベインキャピタルの協力が必要不可欠になりますが、ベインキャピタルにとっても、本公開買付けは、廣済堂の株主利益を犠牲にして廣済堂の株式を低い価格で買収することができるという見返りを得ることができるものであると考えられます。
すなわち、本適時開示17頁に公表されている事業計画は、過去に当社が開示した「第3次中期経営計画(2017年~2019年度)「KOSAIDO Re-Innovation」」を下方修正したものです。ところが、この新たに策定した事業計画は、本公開買付けのわずか約1か月前の、平成30年12月3日に廣済堂の取締役会が承認したものです。今から振り返って考えれば、廣済堂現経営陣が、本公開買付けに係る株式の買付価格を意図的に下げるために、本公開買付けの直前に事業計画を下方修正したことが疑われます。
また、本適時開示15頁には、「当社の印刷事業における簿価約100億円程度の資産及び東京博善の簿価120億円程度の資産に係る平成31年3月期又は将来における減損の可能性があ」り、「当社単体で債務超過に陥るも否定できないため、本取引を実行せずに当社が上場を維持した場合には、今後、株価の下落の可能性や、当社の株主の皆様への配当財源を確保することが困難となる可能性がございます。」と記載されています。そして、本適時開示22頁以下に第三者委員会の答申書の内容が開示されていて、「(4) 以上のとおり、当社においては、企業価値向上のため、特に印刷事業及び人材事業について大規模な投資が必要となるが、前記……のとおり、多額の有利子負債や当社及び東京博善の一部の資産の減損可能性を考慮すると、当社の財務状況では、投資余力がなく、このまま単独で企業価値を向上させる余地は乏しいこと」が答申書の内容に含まれていることが記載されています。
廣済堂の現経営陣らは、廣済堂にはそのような多額の減損可能性があり、単体で実質債務超過であるかのような事実が認められ、故に廣済堂に投資余力がないことから、このままスタンドアローンでは企業価値を向上させる余地はないので、非公開化してベインキャピタルと提携することが合理的な経営判断であるということが言いたいのだと思われます。
しかし、廣済堂の財政状態が、真実、債務超過であるならば、継続企業の前提に関する事項を注記することについて決定し(日本公認会計士協会「監査・保証実務委員会報告第74 号 継続企業の前提に関する開示について」(2009))、直ちに株主・投資家に向けて開示がなされるべきですが(有価証券上場規程402 条1 号ak)、これまでそのような開示はなされておらず、また、私が、会計監査人と連携している限りにおいては、そのような事実は認められません。また、廣済堂現経営陣らや第三者委員会が必要であるという、「大規模な投資」の具体的内容も明らかではありません。
そして、実際、一般に、全部買付けによる公開買付けが公表された場合、市場株価は、公開買付けに係る株式の買付価格と同額近くで推移するのが通常であるにもかかわらず、廣済堂の株価は、平成31年1月22日に、本公開買付けに係る株式の買付価格(610円)と同額に近い608円に達し、同月28日までは608円から609円を推移したものの、それ以降、市場価格が本公開買付けに係る株式の買付価格(610円)よりもはるかに高い金額で推移し、同年2月4日以降は、一時800円を上回ったばかりか、終値が700円を下回ったことはありません。この事実は、株主・投資家の皆様が、本公開買付けに係る株式の買付価格である610円が低いと考えていることを裏付ける事実といえます。
そうすると、ベインキャピタルが公正な価格よりも低い株価で廣済堂を買収することが目的であることが疑われます。

4 私の会社法第381条第2項に基づく報告請求と現経営陣及び第三者委員会の委員を兼ねる千代田社外取締役の報告拒絶 ― 廣済堂のガバナンス不全

私は、本公開買付けが、株主共同の利益を害し、既存株主に不利益を与える可能性があるとの危機感を覚え、廣済堂現経営陣に対しては平成31年2月5日に、第三者委員会の委員を務めた千代田社外取締役に対しては同月8日に、それぞれ、本公開買付けに関する私の上記各点に係る疑問点を指摘した上で、会社法第381条第2項に基づいて上記各点について具体的な報告を求めることを通知しました。
しかし、廣済堂現経営陣は同月12日に、千代田社外取締役は同月14日に、私の顧問弁護士が、廣済堂と利益が相反する「おそれがある」、廣済堂の創業家株主の代理人を兼任していること等から、私の代理人弁護士に上記各点の報告をすると、内部情報を第三者に伝達される「おそれ」がある等の理由により、報告することを拒絶しました。
そもそも、会社の業務上の秘密が漏れるおそれがあることを理由に監査役の質問に応答することを拒否することは違法と解されています(稲葉威雄ほか編『実務相談株式会社法3〔新訂版〕』957 頁〔慶田康男〕(商事法務研究会、1992))。また、私としては、彼らのいう「内部情報」が何を指しているのか不明でありますし、当社の株式を保有する土井社長・渡邊義和取締役・中井章監査役に対して当社の内部情報を共有しておきながら、他の株主との間で利益が相反する「おそれがある」との理由で報告することができないという主張の論拠も不明でありますし(利益相反があるとすれば、それは廣済堂現経営陣らとの間であって、株主共同の利益との間ではありません。)、また、代理人弁護士は、法律上、秘密保持義務を負うため(弁護士法23条)、彼らのいう「おそれ」もないと考えます。
しかし、私は、公開買付けの期間との関係で緊急を要することから、彼らの主張も考慮して、廣済堂現経営陣に対しては同月13日に、千代田社外取締役に対しては同月14日に、監査役としての善管注意義務と矛盾しない限りにおいて廣済堂現経営陣及び千代田社外取締役がいう「おそれ」を払しょくするための措置(別の代理人弁護士の選任、守秘義務に係る誓約書の提出など。)を講じることを検討するので、具体的にどのような措置を講じれば、私が請求した事項を報告するのかを照会する通知をしたところ、廣済堂現経営陣及び千代田社外取締役は、現在に至るまで、何らの回答もせず、報告を拒絶し続けています。
このように廣済堂の取締役会及び社外取締役による本公開買付けに関する意思決定に係るガバナンスは機能不全といえます。

5 まとめ
以上の理由により、私は、本公開買付けに反対し、株主の皆様に対しては、本公開買付けに応募しないようにお願いをするとともに、既に応募された株主の皆様に対しては、速やかに本公開買付けに係る契約を解除するよう、お願いします。

以 上

※問い合わせ先は顧問弁護士のOMM法律事務所 大塚和成弁護士(03-3222-0330)となっている。

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