【続報】東証一部「東レ」不正会計疑惑、金融業者が訴訟提起 社長・日覺委任状の印影は「真正」と鑑定 内部統制に欠陥


■6月25日、東証一部上場東レ(社長・日覺昭廣)は株主総会を開催し、日覺の続投を決議するとともに、会計監査人・EY新日本有限責任監査法人(理事長・辻幸一)の監査報告書・内部統制報告書が添付された2019年3月期有価証券報告書を、金融庁に提出した。EY新日本有限責任監査法人は内部統制報告書で、〈当事業年度末日時点において、当社の財務報告に係る内部統制は有効であると判断した〉と述べている。これにより、東レの環境・エンジニアリング事業セグメントにおける一連の不正会計疑惑は、いち発行体の不祥事から、EY新日本有限責任監査法人を巻き込んだ問題に昇格した。
■東レが2月12日にプレスリリースした水処理システム事業部長F(イニシャル)の〈不正行為〉に端を発するこの事案。当サイトを含め、週刊誌、月刊誌、ネットメディアなど様々な媒体がこの問題を報じた。追及の方向性も様々だが、衆目一致することは、東レ水処理システム事業部が、水処理装置を東レによる債務保証・買戻特約付きで販売し、売上の過大計上を敢行したことである。
■関係者の話や資料を総合すると、16年7月のバングラデシュ・ダッカで発生したテロ事件の影響で、バングラデシュに出荷する予定だった水処理装置が宙に浮いた。本来ならば失注として処理すべきところを、東レ水処理事業部はトレックスジャパン(大阪府大阪市、社長・濱田光雄)に押し込み販売することで売上を計上した。同社は「東レマンション」の清掃、東レの製品の代理店を業としている。連結外でありながら、東レが重要な影響力を行使できる、いわば“衛星”のような会社と見られる。
■その後、トレックスジャパンに抱かせた水処理装置を、東レの「在庫引き取り要請」により取得したのが、オリエントコミュニケーション(東京都港区、社長・小黒康夫、以下「オリエント社)である。ダッカの事件からちょうど1年後の17年7月頃のことだ。東レとオリエント社は債務保証や買戻しを約した「業務協力協定書」を締結し、オリエント社は東レの債務保証を受け、ソーシャルレンディング会社から水処理装置取得資金を調達した。
■既に報じた通り、「業務協力協定書」を締結した際の水処理システム事業部長は、事業部長Fの前任者である。おそらく事業部長Fは着任早々、オリエント社に取得させた水処理装置の「処理問題」に直面。債務不履行により架空売上の事実が露見するのを防ごうと、資金繰りに足掻く中で雪だるま式に借金を膨らませていったと思われる。
■事業部長Fは17年9月頃から様々な金融業者に、事業部長Fを受任者として金消契約の締結を委任する日覺の委任状、印鑑証明書、オリエント社の業務協力協定書を示して、打ち合わせの会場を東レ本社に設定するなどして、オリエント社への融資を斡旋していた。金融業者からすれば、これだけの書類が揃って、本物の事業部長が本社から出てくるのだから「間違いない」と確信しただろう。
■だがこの点、東レは2月12日のプレスリリースにて、債務保証や買戻契約は事業部長Fが印影を偽造して作成したものであるから、無効だと暗に主張している。しかし実は、印影鑑定により日覺の委任状に押印されていた印影は真正なものであるという鑑定結果が出ていた。
■東レは開示していないが、今年4月、金融業者のひとつが東レ、オリエント社などを相手取り、約5億円の買戻代金支払請求訴訟を東京地裁に提起している。訴状によると、東レは金融業者に対して、日覺の委任状の印影は事業部長Fが偽造したものだと内容証明で主張していたようだ。
■そこで金融業者が、印鑑証明書と委任状に押されている印影の簡易印章鑑定を鑑定人に依頼したところ、今年3月に「鑑定印影と対象印影は、同一性が高い印影である」との鑑定結果を得たという。訴訟資料には鑑定書が証拠提出されていた。
■日覺の委任状が真正なものであれば、他の金融業者との契約も有効である可能性が高い。東レの規模に比して5億円という訴額は過少かもしれないが、金融業者が複数社あるとなれば、金額的重要性が増してくる。
■日覺としては、「印影偽造」でこの事案を片付けたいのだろうが、その主張には無理がある。オリエント社との「業務協力協定書」は事業部長Fの前任者が作ったものである。日覺の委任状は、当サイトが知る限り事業部長Fが着任してすぐの17年9月のものから存在している。事業部長Fが勝手に社長室に忍び込んで、日覺の印鑑を持ち出したという線も考えられるが、長期的かつ頻繁に印鑑を持ち出すのは現実的ではない。
■考えられるのは、日覺が水処理装置を巡る不正会計を知っていてその処理を事業部長Fに指示したか、具体的な検討もせず事業部長Fに全権を委任していたかのどちらかである。いずれの状態でも事業部長Fが、東レの関知できない簿外債務を発生させるリスクが伴っている。その意味では、東レの内部統制には重大な欠陥があると考えられる。
■そもそも前任者が行ったトレックスジャパンへの売上計上とオリエント社との業務協力協定書も、上場会社としては尋常ならざる取引である。しかしながら、EY新日本有限責任監査法人は、この問題が様々なメディアで報じられているのにも関わらず、「内部統制は有効」という報告書を出したのである(つづく)。
(文中敬称略)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です