【続報】元MUFG副社長が「日本ペイント」CEOを退任 シンガポール投資会社への「身売り」が完結


■三菱UFJフィナンシャルグループの元副社長で、「喧嘩マサ」などとして知られた名物経営者・田中正明が、19年3月に就任したばかりの東証1部日本ペイントホールディングスのトップから今年4月末、突如退任した。引退会見では〈自らの経営上の体力や年齢という事実に向き合う必要がある…残念なことに、年初来、何度か体調を崩してしまいました〉と述べ、加齢と体調悪化を示唆する。しかし、そもそも会長に就いた時点で60代半ばと十分に高齢であったし、体調が悪いならばなぜ、3月下旬の株主総会で社長兼CEOに再任したのか。腑に落ちない点が多い。(本記事は、月刊誌『ZAITEN』21年7月号に寄稿した記事に一部修正加筆を加えたものです)

■田中は18年7月、当時日本ペイント株の約4割を握るシンガポール投資会社ウットラムの代表・ゴー・ハップジンからの誘いで、指名報酬委員会アドバイザーに就任。その頃は産業革新投資機構の社長だったが、同年12月に例の「喧嘩」の末、退任。19年3月に日本ペイントの会長となり、20年1月からは社長CEOを兼務した。
■この人事をウットラムによる支配強化と見る向きもあったが、日本経済新聞が〈ゴー・ハップジン氏に海外戦略を頼ってきた経営体制からの脱却を進める〉とフォローし、見方が分かれていた。だが20年8月に田中は、ウットラムからアジア地域の合弁会社の持ち分とインドネシア事業を1兆3000億円で取得し、代金のうち約1兆2000億円をウットラムへの第三者割当増資で、残り1000億円を現金で支払うディールを敢行。合弁会社は100%日本ペイントの持ち分となったものの、ウットラムの保有割合は6割超に増えた。
■この時点で日本ペイントの経営権は実質、ウットラムに握られた格好となった。しかし、田中は「買収したのはこっちだ」と1人気を吐き、日経系メディアも田中を援護していた。しかし今回、身売り説を否定していた張本人が退いたのである。
■新たに社長に就任したのは若月雄一郎(専務執行役CFO)と、ウットラム系のシンガポール人ウィー・シューキム。若月は19年11月に入社し、ウットラムとのディールを取り仕切った。ウィーはウットラム出身。田中と日経により何度も否定されたウットラム支配が現実のものとなった。道化師を演じた田中は約3億3000万円の役員報酬を得た。
当サイトは『ZAITEN』今年3発売号に「日本ペイント田中社長『恩返し』の情実」と題し、田中の経営手腕を疑問視する記事を寄稿していた。日本ペイントは豪州とトルコで合計3000億円を超す買収を敢行したが、アドバイザリーに田中が懇意にしているコンサルティング大手PwCが付いていた可能性がある。巨額M&Aの結果、日本ペイントの資産効率は悪化していた。『ZAITEN』編集部は今年2月9日、M&Aのアドバイザリー等について取材したが、「個別の取引につきましては開示しておりません」と回答していた。
■さらにウットラムとのディールだが、このスキームは2014年に日本ペイントがウットラムに裏を掻かれた際の焼き直しである。当時も合弁会社の持ち分を1000億円の現金と新株発行で取得するものだった。日本ペイント経営陣は、ウットラムが経営に手を突っ込んでくることはないと高をくくっていたが、ウットラムは場で日本ペイント株を買い占め、役員を送り込んできた。
■ところで、田中は自画自賛の中で昨年8月のディールについて、ウットラムから合弁会社の持ち分を〈割安〉な価格で取得出来たと述べている。本当にそうだろうか。
■日本ペイントの20年12月期の純利益のうち、非支配持分に帰属する利益は235億円である。これを約1兆500億円で取得した場合、株価収益率は44・6倍ということになる。この水準はアジアの塗料・インキ業界の上場企業に比して、特段、割安というわけではない。
■5月に公表された持ち分取得後の今期1Q決算によると、合弁会社の持ち分の帳簿価格は約1300億円であり、1兆500億円で取得した結果、資本剰余金が9000億円減少した。これを賄うために利益剰余金を2000億円取り崩している。日本ペイントがこれまで営々蓄積した利益がウットラムに吸われたと見えなくもない。財界人と御用メディアの内輪ノリの結果、海外勢に資産を掠め取られる「日本の縮図」がここに完結した。(文中敬称略)

2021年3月18日付レポート:三菱UFJ元副社長が牛耳る東証1部日本ペイントホールディングス、海外M&A高値掴みの懸念 コンサル大手PwCに〝恩返し〟か

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