■仮想通貨交換業者の自主規制団体として金融庁の認可を受けている日本暗号資産取引業協会（JVCEA、会長・蓮尾聡＝コインチェック株式会社社長）の幹部人事が、関係者の間で物議を醸している。JVCEAは仮想通貨の新規取り扱い審査や、交換業者の資格停止や除名などの権限を持つが、組織運営の在り方に疑問を投げかけそうだ。
■問題が指摘されているのは、金融庁OBの古瀬保弘を協会の事務局長兼専務理事に選任する人事である。JVCEA会長の蓮尾は、マネジメントや金融庁との調整に適しているとして、今年2月から会長補佐を務めている古瀬を推薦。6月24日の社員総会に諮るため、5月20日付で会員に送付した「2022年度 理事選任の方針について（案）」に、古瀬の略歴を掲載していた。2011年6月に金融庁退官後、同年7月にあらた監査法人、19年に㈱LastRoot代表取締役社長、20年12月に同社退社という経緯が記されている。
■問題はこれに2つの重要な経歴が抜け落ちていることだ。1つは名証ネクスト上場「オウケイウェイヴ」。古瀬は2018年7月、シニアアドバイザーに就任。翌年2月には同社内部監査室長に就いていた。経歴書に記載のあるLastRootは、19年にオウケイウェイヴが買収したもので、実質的に18年7月から20年12月までの2年間、オウケイウェイヴのグループで勤務していたのである。
■むろんこの経歴は、JVCEAの要職に就くにあたり重要でないと判断され、省略されたこともあり得る。しかし当時、オウケイウェイヴは仮想通貨関連事業に手を出していた。いまや「詐欺コイン」とも言われる仮想通貨wowbitの上場を支援し、事実と異なる情報開示を行って、投資勧誘に加担。シンガポールに拠点を置く発行体から租税回避地で多額の収益を得ていた。wowbitがいかに問題ある仮想通貨だったかは、18年10月に当サイトでレポートしている。
■オウケイウェイヴはその後、仮想通貨関連事業のため、20億円ものソフトウェア開発投資を敢行。ところが、巨額投資に見合う成果は殆ど得られず、巨額の減損損失を計上した。これが原因で、主力事業だったQ&Aサイト事業を失った。さらに、Q&Aサイト事業の売却で余った資金をポンジスキームで運用し、今年に入り巨額の損失を出している。仮想通貨関連事業を推進し、インサイダー取引疑惑で引責辞任した松田元・元社長は、損失公表の直前にオウケイウェイヴ株式を大量処分していた。ガバナンス上、問題の多い上場企業である。
■JVCEAで「2022年度 理事選任の方針について（案）」が配布された頃、オウケイウェイヴが被害に遭ったポンジスキーム事件は様々なメディアで報じられており、オウケイウェイヴの経歴はマイナスイメージを避けられない。無難に選任議案を通過させるために、あえて省略にしたように映る。
■さらに重要なのが、コインチェックでの勤務歴だ。「略歴を見ると、LastRoot退職後が空白となっていますが、実はJVCEAの会長補佐になるまでの間、コインチェックでもアドバイザーをしていたようです」と関係者は言う。コインチェックは蓮尾が経営する会社であり、会長が経営する企業との利害関係は、候補者の中立性を諮る上で重要性が高い。こうした情報を開示せず人事を行うのは、公共性の高い自主規制団体の在り方として不適切ではないか。
■当サイトがJVCEAに取材したところ、オウケイウェイヴの経歴を省いたことについては、「オウケイウェイヴ社が仮想通貨取引業に参入を目指すということで2018 年7月から知人の紹介で入社しましたが、認可を受けるには厳しい状況がつづいて半年が過ぎ、オウケイウェイヴ社の経営陣から2019年1月頃、急にLastRoots社（みなし業者）を買収したと聞かされ、買収後、LastRoots 社の経営改善等のお手伝いとオウケイウエイヴ社の内部監査の実質立ち上げをいている最中で仮想通貨交換業をみなしで行っているLastRoots社に行くよう指示（CFOから）を受けました。従いまして、オウケイウェイヴ社はLastRoots社の親会社であり、この業界とあまり関係ないので記載をしなかったものです」と回答。
■コインチェックとの関係については、「昨年2月から今年の1月まで一年間コインチェック社の内部管理のアドバイザーとして業務を受託しました。実績は内部監査に関する質問対応と担当者への研修です」と述べた（文中敬称略）。
2018年10月29日付レポート：セントレックス上場オウケイウェイヴが仕掛ける仮想通貨「Wowbit」、White Paperに重要な虚偽
2018年11月26日付：【続報】セントレックス上場オウケイウェイヴ、仮想通貨「Wowbit」に関する訂正リリースを公表