■東証一部・ユーグレナが21日、2016年9月期有報を開示した。売上高は11,103百万円と前期に比べ187.4%の大幅増収だったが、営業利益率は8.04%から6.25%と減少。主力の健康食品事業だけで見ると19%から14.22%と、収益性は悪化している。主な要因は広告宣伝費を中心とした販管費の増大である。16年9月期の広告宣伝費は3,219百万円と前期比の2.7倍(なお研究開発費は354百万円)で、タレントの川島海荷を起用したCMを打ったことなどが理由として挙げられる。
■ユーグレナは来期目標を売上高17,000百万円、経常利益1,100百万円と予想しているが、その後の決算も同等の利益水準で推移していくと思われる。ストックオプションの行使条件は同社の行く末を見るうえで参考になる。第6 回新株予約権(業績条件付有償ストック・オプション)は、2018年9月期~20年9月期までに売上高25,000百万円で経常利益1,000百万円を達成したなら60%、売上高30,000百万円で経常利益1,000百万円ならすべてのオプションが行使可能となる。16年9月期の経常利益率は8.51%だが、60%の行使条件は4%、すべての場合は3.3%だ。
■低下すると思われる健康食品事業の収益力に対して、ユーグレナの投資家が期待しているのが「エネルギー事業」の将来性だ。だが、当サイトや「東京アウトローズ」で過去報じてきた通り、これまで幾度も事業計画は延期・仕様変更されてきた。18年末竣工予定である神奈川県横浜市の「バイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラント」の生産能力は年間125キロリットルで、到底商業ベースには乗るとは思われない。今回の「実証プラント」の前身である沖縄県での「藻類由来油脂開発・生産設備」の計画が始まった13年頃に比べ、原油価格が大幅に下落していることを考えると、仮に商業化したとしても採算性の点で懸念が残るが、ユーグレナは製造コストについて非開示だ。新聞報道等では数倍から数十倍と言われている。
■また、燃料製造技術の提携先が変更されていることに留意する必要がある。ユーグレナは15年2月、米石油大手シェブロンと米エンジニアリング・建設のCB&Iの合弁会社シェブロンラマスグローバルとの間で基本合意契約を締結し、バイオ燃料の転換技術のひとつであるアイソコンバージョンプロセス技術を実証施設に用いると発表した。
■開示前日に『日本経済新聞』が「ユーグレナ、米シェブロンとバイオ燃料、航空機向け、国内で精製。」と1面で報じ、翌日の株価は25%高の2177円まで高騰した。その後も大手メディアが競って提灯記事を書いたが、その年の3月に上場前からユーグレナとバイオジェット燃料の研究を行ってきたJX日鉱日石エネルギー㈱や日立製作所との共同研究が終了したことについて触れている社は少ない。重要なのはここだろう。
■バイオ燃料を航空機燃料として使用するためには、ASTMインターナショナル(旧米国試験・材料協会)の規格に適合した原料と製造方法でなければならない。この点について、ユーグレナ役員の永田暁彦は今年9月、『日経ビジネスオンライン』のインタビューで、〈既に、2012年にASTMなどの国際規格クリアしている〉と述べている。ユーグレナは取材に対し、「当社が2012年に試験精度を外部機関に委託し、ユーグレナを原料として製造した燃料が、ASTM D7566 Annex2の規格に準拠した燃料であるとの報告を得た」とした。
■ユーグレナの目論見書など開示情報、同社への取材等を総合すると、当初の計画(沖縄県での生産設備)はASTM D7566 Annex2に準拠したバイオジェット燃料の精製はJXが担い、プラント建設や燃料抽出技術は日立が提供するというものであった。それがいつの頃か、ASTM規格に適合したものではないシェブロンのアイソコンバージョンプロセス技術を用いる計画に変更されたのである。ユーグレナは、同技術のASTM規格取得が来年に「認証予定」としているが、あくまで見込みだ。つまりユーグレナは、既に確立された技術ではなく、新たな製造方法を選択しなければならない何らかの課題に直面していた可能性が高い。
(文中敬称略)
2016年8月18日付レポート:アベノミクス象徴銘柄「ユーグレナ」、度重なる設備投資計画の延期 東京大学との「微細藻類の資源化」に関する共同研究は6月末で終了
2015年2月10日付:東京アウトローズ「【沖縄現地取材】 アベノミクス象徴銘柄「ユーグレナ」、ミドリムシ大量培養は本当に独自技術なのか、巨額設備投資計画の遅延判明、増資資金も不透明な債券投資に」