■去る4月15日付で日本経済新聞が報じた通り、証券取引等監視委員会は、2015年2月にジャスダック上場廃止となった㈱T&Cメディカルサイエンス社長・田中茂樹が同社株式を不正に売り抜けたインサイダー取引の疑いで、同社に強制調査を行っている。
■不正な売り抜けが疑われているのは、16年11月期の決算短信が公表される17年1月以前の取引である。T&Cメディカルサイエンスは12年11月期から営業利益・営業キャッシュフローが赤字続き、かつ15年11月期から債務超過に陥っていた。16年11月期も改善せず、上場廃止基準への抵触が不可避となる中で売り抜けに走ったと思われる。
■決算発表直前の株価を見ると、確かに高騰しており、このタイミングで売却したと考えるのが自然だ。ただ、16年11月期の有価証券報告書に記されている株主の状況を見ると、16年11月30日付の田中の持株は1,666千株で、翌年同期の持ち株数はむしろ増加しており、売り抜けたとすれば他人名義の口座での取引と思われる。
■実際のところ、上場廃止間際にT&Cメディカルサイエンス株を売りさばいていたのは、田中と共に同社のファイナンスを引き受けた面々である。16年6月、同社はデットエクイティスワップによる新株発行やMSワラント債による資金調達を実施。そこで田中と共に引き受け手となったのが、合同会社PTBやIbuki Japan Fundである。
■Ibuki Japan Fundはデットエクイティスワップにより一株127円で新株発行を受け、合同会社PTBは行使価額115円のオプションと前日終値の90%の修正条項が付いたMSワラント債の割り当てを受けた。合同会社PTBはこれにより一時、T&Cメディカルサイエンスの20%を超を持つ筆頭株主となったが、発行直後から売り抜けて17年11月末までに持株の大半を市場で捌いたと思われる。冒頭のグラフの通り、T&Cメディカルサイエンスは上場廃止直前に株価が170円台まで高騰するなど、奇妙な値動きをしていた。
■ハコ企業として有名だったT&Cメディカルサイエンスを舞台に利益を得たと思われるこの合同会社PTBとIbuki Japan Fund。実は、昨年当サイトで報じた東京大学医科学研究所初バイオベンチャー、テラ㈱(社長・遊佐精一)を巡る一連の疑惑に深く関与していた。
■テラを巡る不正を振り返ると、同社は創業者の矢﨑雄一郎が実質的に支配する医療法人・医創会に対して多額の売上を計上していた。しかし、医創会の資金繰りが悪化し始め、売掛金の決済資金に欠くようになった。医療法で医療法人の営利目的経営が禁じられている以上、テラが表立って資金支援することが憚られる中で、社長だった矢﨑が個人の持ち株を使い、医創会へのファイナンスに乗り出し、不適切な取引にのめり込んでいった。
■実は、Ibuki Japan Fundは、医療法人・医創会に対し数億円の貸付を実行する一方、テラ創業者の矢﨑雄一郎(当時社長)から持株を取得するなど、一時期の同社に対して相当な影響力を有していた。この辺りは第三者委員会報告書で経緯を詳しく記してある(第三者委員会報告書中 Kファンド=Ibuki Japan Fund)。
■さらに、テラに対してはIbuki Japan Fundを紹介したのは、T&Cメディカルサイエンスのファイナンスで新株予約権を取得している合同会社PTBの関係者である。テラの事案を見ると、Ibuki Japan Fundとその関係者らは、単なる貸付に留まらず、増資先の選定といった会社の重要な決定に介入していたようである。T&Cメディカルサイエンスの事案を見ると、合同会社PTBがIbuki Japan Fundを紹介した関係にあるようだ。
■T&Cメディカルサイエンス関係者は「PTBの元代表・片田朋希がファインダーとして、ハコ企業のファイナンス案件をIbuki Japan Fundに提案する関係。Ibukiは松木悠宣という、雑誌などで有名な投資顧問会社出身の人間がやっていて、大手ローファームがアドバイザーについているから法令違反は問われないようにな体制ができているらしい」という。ハコ企業を巡る事案は往々にして、民事・刑事上の責任を問われるのは発行体の社長だが、利益を手にしたファンドやブローカーは無傷でいることが多い。
(文中敬称略)
2018年9月18日付レポート:【続報】社長による不正発覚のジャスダック上場テラ 疑惑の取引先・医創会は「医療法違反」の疑い
2018年9月6日付レポート:【続報】第三者委員会設置のジャスダック上場テラ、疑惑の社長持株大量売却は「上場廃止回避」目的との重要証言
2018年8月8日付レポート:“ファイナンス中毒”に陥ったジャスダック上場バイオベンチャー・テラ、謎を呼ぶ社長の持株大量処分