“ファイナンス中毒”に陥ったジャスダック上場バイオベンチャー・テラ、謎を呼ぶ社長の持株大量処分


■がん免疫療法に関するサービスを提携医療機関に提供するジャスダック上場テラ㈱(コード2191、社長・矢崎雄一郎)。同社は6月、近年タックスヘイブンとして関係者の間で注目を浴びているマレーシア・ラブアン島に所在する「E-4B Investments」を割当先とするエクイティファイナンスを実施した。09年に上場したテラは12年12月期以降、赤字続きで、株価下落を招くファイナンスを連発している。
■テラはE-4B Investmentsに対して、発行価額488円の新株409,900株(払込金額約200百万円)と行使されれば約1,600百万円のMSワラント(行使価格は終値の92%)を発行。アドバイザーはジャスダック上場GFAの子会社である。テラがMSワラントを発行するのは初めてではない。13年6月、野村證券に前日終値の90%を行使価格とするMSワラントを、16年12月にはモルガンスタンレーMUFG証券に行使価格を前日終値の92%とするMSワラントを発行。17年7月にはひふみ投信に1株491円で200万株(982百万円)の増資を実施した。
■今回のE-4B Investmentsへのファイナンスは、過去のものとは引受先の属性という点で質的に異なる。テラは開示の中で、「E-4B」について、〈出資者について、割当予定先のファンドマネージャーに確認を取ることを試みましたが、出資者と割当予定先との守秘義務があることから、確認できませんでした〉と述べる。実際の出資者が誰なのか、知ろうとしてもわからなかった。アドバイザーのGFA自体、正体不明の「Ibuki Japan Fund」に対して増資を実施する会社である。これまでの引受先だった大手証券やファンドとは訳が違うのだ。
■社長の矢崎は東京大学医科学研究所出身という、比較的信用力の高い経歴の持ち主である。産学連携の「東京大学エッジキャピタル」が上場支援に入ったほど期待された同社が、如何わしいファイナンスに走る理由は様々だが、16年12月から和歌山県立医大と開始した、テラが開発した樹状細胞ワクチンの医師主導治験はその大きなきっかけの一つであろう。再生医療等製品としての承認取得までに38億円の資金を要するとされ、関係者の間では「これが資金繰り悪化を招いた」と指摘されている。17年12月期中に連結従業員数は71人から29人に、そのうちテラ単体では33人から17人に半減している。テラの有報では自己都合退職と記されている。仮にその通りだとしても、社内に相当な不安が渦巻いていることが伺える。
■治験開始と同時に実施したのが前述のモルガンスタンレーMUFG証券へのファイナンスだが、17年12月期までに予約権行使により調達できたのは490百万円ほどで、行使率は30%程度。今年6月時点ではあと23億円の資金が必要とされ、E-4B Investmentsによる行使が進まなければ、また新たなファイナンスを行わなければならない。
■テラの経営が大きく傾いた17年12月期中には、社長である矢崎が不可解としか言いようがない行動をとっている。矢崎は16年12月末時点で約30%を保有する筆頭株主であったが、17年2月に持株の4割に相当する1,623千株(発行済株式総数の約11%)を、時価の3割程度の185円でベルウッド・エンタープライズ㈱なる会社に売却した。仮に、矢崎個人が資金繰りに窮していたとしても、時価の3割で持株を売る合理的な理由は考えられない。17年4月12日付でベルウッド社が提出した大量保有報告書を見ると、下記のように売却されていたことがわかる。

取引日 株数 単価 取引額(円)
2017/2/15 取得 1,623,377 185 市場外 300,324,745
           
2017/2/23 売却 51,000 終値570 市場内 29,070,000
2017/2/24 売却 750,000 566 市場外 424,500,000
2017/3/8 売却 122,377 555 市場外 67,919,235
2017/4/4 売却 1,000 終値555 市場内 555,000
2017/4/5 売却 50,000 493 市場外 24,650,000

※市場内売却の場合は取引日の終値で売却価額を計算
■17年12月期の有報を見ると、ベルウッド社は持株の大半を売却している。17年4月から12月までの月平均の終値は463円~602円で推移している。4月5日までに残りの649,000株をこの水準で売却した場合の売却代金は300百万円~390百万円となる。
■ベルウッド社の目的欄を見ると中古車の販売や芸能プロダクションの経営など医療には全く関係のない事業が羅列されており、事業とは関係のない会社であることは明らかだが、ベルウッド社と極めて関係の深いMaxwood.株式会社という会社が、別の上場会社に関与していた。ジャスダック上場ピクセルカンパニーズである。この会社は当サイトでかつて追及したことのある問題企業だ。
■Maxwoodは16年10月、ピクセルカンパニーズの筆頭株主であったBENEFIT POWER INC.から株式を取得し、15.87%の筆頭株主となった。BENEFIT POWERはそれに先立ち、後に粉飾で問題となるピクセルカンパニーズ子会社ルクソニア社長の松田健太郎からピクセルカンパニーズ株式を取得している。200円台で推移していた同社の株価はその後暴騰、Maxwoodは500~600円台の高値で株式の一部を市場外で売却している。
■話が若干逸れるが、Maxwoodがピクセルカンパニーズ株を高値で売却した時期と前後して、ピクセルカンパニーズが公表していた16年12月期2Q、3Qの業績は売上の過大計上により営業利益を黒字化したものであったことが明らかになっている。前出・ルクソニアは問題の売上を計上した子会社であり、Maxwoodに間接的に株式を売却した松田健太郎は問題の当事者である。筆頭株主から株を安価で譲り受ける点は矢崎との取引と似通っている。
■Maxwoodが矢崎保有のテラ株を売却して得た利益は546~637百万円と推定される。捉え方によっては、相当の現金がMaxwood社で捻出されたと考えられる。ここで、テラの業績を見ていきたい。テラの営業利益は13年12月期を最後に直近期まで連続赤字である。営業CFも赤字続きであったが、17年12月期はかろうじて黒字を計上した。ジャスダックの上場廃止基準には〈最近4連結会計年度における営業利益及び営業活動によるキャッシュ・フローの額が負である場合において、1年以内に営業利益又は営業活動によるキャッシュ・フローの額が負でなくならないとき〉と定められており、危ないところだった。

(千円) 13年12月期 14年12月期 15年12月期 16年12月期 17年12月期
売上高 1,539,993 1,865,884 1,909,434 1,801,837 957,644
営業利益 23,234 △ 293,449 △ 601,136 △ 621,517 △ 245,110
最終利益 △ 58,296 △ 402,931 △ 990,662 △ 918,828 △ 643,644
営業CF 4,694 △ 199,983 △ 386,993 △ 565,518 47,258
投資CF △ 314,778 △ 523,441 △ 371,383 374,555 △ 371,921
財務CF 359,661 1,312,794 △ 87,041 1,412 1,133,185

■テラの17年12月期営業キャッシュフローを黒字化した主な要因は売上債権の減少273,080千円である。テラは16年12月期3Qから売掛金の規模に比して多額の貸倒引当金を計上しており、この時期から滞留債権が発生していたと思われる。16年12月期の単体売掛金計上額は277,611千円、連結は413,882千円である。差額136,271千円は連結子会社のものである。
■テラは17年9月、連結子会社バイオメディカ・ソリューション㈱を売却し連結除外している。17年12月期の単体売掛金は62,237千円、連結は80,198千円で、差額は僅か17,961千円であり、売上債権の減少の大半は会社売却によるものである可能性が高い。
■だが奇妙なのは、テラの四半期ごとの売上高と売掛金、貸倒引当金計上額の推移を見ると、17年12月期に減少した売掛金と貸倒引当金が18年12月期1Qにふたたび増加し、回転期間も長期化している点である。滞留債権を回収した矢先にまた焦げ付いた売掛金が発生したということだろうか。

16年1Q 16年2Q 16年3Q 16年4Q
連結売上高 544,624 506,623 369,900 380,690
細胞医療事業 213,800 205,675 202,313 185,290
医療支援事業 330,824 300,944 167,590 195,400
売上債権 511,223 332,919 362,280 413,882
貸倒引当金 0 △ 44,600 △ 163,656 △ 134,415
回転期間 2.82 1.97 2.94 3.26
  17年1Q 17年2Q 17年3Q 17年4Q 18年1Q
連結売上高 281,086 357,836 203,199 115,523 107,334
細胞医療 163,900 144,667 117,668 92,270 79687
医療支援 117,186 213,169 85,531 23,253 27647
売上債権 328,884 312,048 221,148 80,198 137,111
貸倒引当金 △ 133,300 △ 133,249 △ 133,232 △ 71,055 △ 130,330
回転期間 3.51 2.62 3.26 2.08 3.83

※単位;千円  売掛金回転期間=(売掛金÷(各四半期売上高÷3ヶ月))
■連結と単体のバランスシートに計上された貸倒引当金の計上額から、滞留債権が発生している事業セグメントは単体の細胞医療事業と推定される。テラの細胞医療事業セグメントの主要販売先はがん免疫療法を行っている医療法人医創会が運営する「セレンクリニック」グループ(東京、名古屋、神戸、福岡に拠点)である。
■医創会に対する過年度の売上高は、14年12月期は550,057千円(連結売上高の29.4%、細胞医療セグメントの49.6%)、15年12月期は525,609千円(同29.5%、50.8%)、16年12月期は452,289千円(同25.1%、56.04%)、17年12月期は295,625千円(同30.8%、57.01%)と大きい。
■医創会は09年4月の設立から15年10月まで、本店を港区白金台2丁目に置いていた。同所はテラ㈱が05年6月から09年9月まで本店を置いていた住所と同一である。各クリニックの設備はテラ㈱が賃貸しているものであり、15年にセレンクリニック東京が千代田区有楽町に本店を移した際は、テラ㈱が約265百万円の設備投資を行い、セレンクリニック東京に賃貸した。連結外ではあるが、テラにとって最も重要な関係法人である。
■信用調査会社の情報によると、医創会の業績は悪化している。15年3月期の売上高は1,410百万円、利益は95百万円で、登記簿記載の純資産は25百万円であった。しかしながら16年3月期は売上高1,234百万円と減収、利益は△139百万円と赤字で、純資産は△114百万円と債務超過。17年3月期の純資産は△190百万円で、赤字体質に陥ったと見られる。貸倒れた売掛金の相手先は医創会である可能性が高い。その場合、赤字体質で債務超過の医創会からいかにして売掛金を回収したのだろうか。
■当サイトは先月末、テラに対し、社長のベルウッド社への株式譲渡の経緯や従業員退職の理由、E-4Bの正体、売掛金の回収方法について質問を行ったが、期日までに回答が無かった。
(文中敬称略)

2017年6月15日付レポート:東京・渋谷の大型クラブ「TK SHIBUYA」巡る暗闘が表面化 詐欺破産で運営会社に刑事告訴 ピクセルカンパニーズ前社長も登場

2017年3月7日付レポート:ジャスダック上場ピクセルカンパニーズ、「社内調査報告書」に疑義 不都合な事実を黙殺した「会社の言い分」そのもの

2017年1月11日付レポート:ジャスダック上場ピクセルカンパニーズ、架空売上計上か 販売した「太陽光発電施設」は未だに更地

2016年12月12日付レポート:【ミニ情報】ジャスダック上場ピクセルカンパニーズ、不正会計の疑いが浮上

2016年7月27日付レポート:ジャスダック上場ピクセルカンパニーズ(コード2743)、新株予約権の行方に注目

“ファイナンス中毒”に陥ったジャスダック上場バイオベンチャー・テラ、謎を呼ぶ社長の持株大量処分” への2件のフィードバック

  1. ~テラの売上債権の減少の大半は会社売却によるものである可能性が高い~とあるが、売上債権の減少から会社売却による債権金額増減の影響は、会計上除かれているはずでは?

  2. 鋭い記事でびっくりしました。
    非常に興味深く読ませていただきました。
    昨日テラから新たなリリースが出ました。どう解釈したら良いか、解説記事が欲しいです。
    また機関の空売りを見ると、E4Bが7月末から仕込んでいたように見えます。ご意見を伺いたいです。

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