■「東大医科研発ベンチャー」として知られるジャスダック上場テラ(社長、矢崎雄一郎)は9月13日、第三者委員会による調査報告書を公表し、9月14日に予定していた本年12月期第2四半期決算を再延期した。第三者委員会の調査報告書は当初問題としていたE-4B InvestmentsへのMSワラント発行や社長の株式売却から、医創会との不適切な関係に踏み込んでいる。そして矢崎がテラのジャスダック上場廃止基準への抵触を逃れるために、主要取引先である医創会から滞留売上債権を回収せんとして怪しげな金融筋を渡り歩き、営業キャッシュフローを黒字化したこと等を明らかにした。
■第三者委員会は、矢崎が怪しげなファイナンスに走った理由について、医創会との「本当の関係」を秘匿し続けていたことが事の発端であると指摘する。医創会はテラの売上高の3割を占める一方、テラは信用力のない医創会に物件を転貸し、広告宣伝費を肩代わりし、矢崎が銀行の通帳・員会や法人の実印を管理していた。医創会の理事長は矢崎の同窓生の整形外科医であり、細胞医療分野に高度な知見があるとは思えない。事実として理事長としての報酬さえ受領したことがなく、オフィスを訪れたこともない、完全なお飾りだった。こうした実態を知らずセレンクリニックに通っていたがん患者が気の毒でならない。
■矢崎が医創会との関係表面化を怖れたのは、医創会が実質的にテラにより運営されているならば、医療法7条等で禁止されている営利目的の病院開設にあたるという認識(※下記参照)が、医師としてあったからである。関係者は「監督官庁である地方厚生局は地域によって監督が厳しい所と甘いところがあり、医創会はテラと矢崎社長の関係を厳しく見ないであろう厚生局の管轄地域にセレンクリニックを開設していた節がある」と語る。
■第三者委員会はテラ・矢崎との一体的な関係について〈始期は不明〉としているが、医創会は15年まで港区白金台にあるテラの旧本店に事務所を置いており、設立当初から実態としてテラ・矢崎が経営していたと考えられる。第三者委員会の報告書では、テラと医創会の不適切な関係が〈売上の実現に影響を及ぼす可能性がある〉(40頁)と含みを残しており、過年度決算の修正が必要となる可能性も出てきている。
■医創会の実態を知れば、少なくとも関連当事者として有報に注記されるべきであろうが、過年度の有報には記載がない。上場時から問題の売上債権回収が実施された17年12月期まで、テラの会計監査人であったのは監査法人トーマツである。トーマツは14年末に筆者が報じた「エナリス粉飾決算事件」でも上場時の粉飾を見逃していたが、大手監査法人による監査報告書といえども当てにならないことを今回の事案でも示している。
■テラを巡る一連の問題は第三者委員会による調査報告書を持って一定の区切りがついた。しかし、17年2月の持株大量譲渡、同年12月の医創会による借入、18年6月のE-4B Investmentsへのファイナンス等の裏側で画を描いた者の存在は明らかにされておらず、今後も独自に事実に迫りたい。(文中敬称略、つづく)
※参考:2012年3月30日付厚生労働省「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」
2018年9月6日付レポート:【続報】第三者委員会設置のジャスダック上場テラ、疑惑の社長持株大量売却は「上場廃止回避」目的との重要証言
2018年8月8日付レポート:“ファイナンス中毒”に陥ったジャスダック上場バイオベンチャー・テラ、謎を呼ぶ社長の持株大量処分
2017年6月15日付レポート:東京・渋谷の大型クラブ「TK SHIBUYA」巡る暗闘が表面化 詐欺破産で運営会社に刑事告訴 ピクセルカンパニーズ前社長も登場
2017年3月7日付レポート:ジャスダック上場ピクセルカンパニーズ、「社内調査報告書」に疑義 不都合な事実を黙殺した「会社の言い分」そのもの
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