金融グループ「Jトラスト」の誤算 シンガポール高等裁判所で露呈した粗略な意思決定 財務分析なく巨額投資を実行か


■金融グループ「Jトラスト」(東証2部8508、社長・藤澤信義)がタイにおける投資事業で計上した約200億円の損失に関連し、投資先を相手取りシンガポールなどの裁判所に提起していた訴訟で、Jトラスト側に不利な判決が相次いでいる。Jトラストは判決文の一部を適時開示したが、判決全文を見ると、開示では触れられていないJトラストの粗略な投資意思決定の一端が明かされていた。不良債権回収でV字回復を狙っていたが、訴訟攻勢が逆流しはじめている。
■Jトラストは2015年から2017年にかけて、シンガポール子会社を通じ、タイの上場企業で二輪自動車ローン事業を展開するGroup Lease PCL(以下、GL)の転換社債に合計約200億円投資していた。しかし、投資資金の一部が複数の貸付先を経てGL株取得資金などに還流し、Jトラストは株価上昇で評価益を計上するなどしたが、17年頃にGLの当時社長で親会社A.P.F Group代表の此下益司がタイ証券取引委員会から粉飾決算の疑いで刑事告発を受けた。その後さまざまな経緯があり、Jトラストは19年3月期にGLへの投資への貸倒引当金で199.3億円の損失を計上した。開示では、訴訟等を通じた回収でV字回復すると宣言していた。
■だが、その思惑は今のところはずれている。Jトラストは2018年初め頃から、GLや此下益司に対して、タイやシンガポール、キプロス共和国など各地の裁判所に訴訟を提起していた。このうち、GLの関連会社を相手取り、投資資金200億円の損害賠償を求めていたシンガポール高等裁判所の判決が今年2月12日にあり、Jトラストの請求が棄却されてしまう(後日控訴)。一方、GLがタイの裁判所に提起していた、Jトラストの濫訴により約30億円の損害賠償を求める訴訟の判決が3月5日にあり、23億円の損害賠償を認める判決が出た
■Jトラストはシンガポール高等裁判所の判決に関する適時開示で、裁判所が、GLが関連会社と行った取引の異常性や問題点を認めている旨を強調している。だが、判決の原文を見たところ、裁判所はJトラスト側の問題点を指摘していた。
■例えば、Jトラストの藤澤や当時取締役だった淺野樹美が、GLへの投資に際して財務諸表を詳細に読んでいなかったことが判決文に記されている(判決文の一部:“As Became evident during the cross-examination of Nobuyoshi Fujisawa, the CEO of J Trust and JTA, and Shigeyoshi Asano, a former director of JTA, J Trust’s board of directors did not appear to have read GL’s financial statements in detail or they would have seen that the GLH Loans were in fact disclosed, albeit without full details.”)。
■また、GLの収益計画について此下の言葉を額面通りに受け取って投資していることについて、デューデリジェンスの欠如を指摘している(“Both companies must be well-aware of the dangers of large investments, and to claim that JTA and J Trust Japan relied purely on Konoshita’s verbal assurances of profitability in LINE messages and emails seems overly simplistic. One might say JTA’s willingness to take Konoshita’s words at face value and its lack of due diligence border on negligence and make any reliance on the representations far less reasonable.”)。財務諸表をよく読まず相手の言葉だけを信用するとは、金融会社の意思決定として迂闊と言わざるを得ない。
■さらに、JトラストがGLらと共に訴えていた資金貸付先の1社であるCougar Pacific Pte Ltdというシンガポール法人について、現在、Jトラストが実効支配していることが明らかになった。Jトラストは18年12月にCougar社の設立時代表だった久我洋一に75億円の損害賠償請求訴訟を提訴しているが、そのような事情は適時開示に記されていない。一連の訴訟をつぶさにみると、Jトラストが開示している情報だけでは見えてこない別の側面が浮かび上がってきた。詳細が分かり次第、続報していく。
(文中敬称略、つづく)

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