■独立系最大の信託銀行グループ・三井住友トラストホールディングス(以下、三井住友トラスト)の資産運用会社、日興アセットマネジメント(会長・佐谷戸淳一、社長・安倍秀雄)。GPIFや日銀などの巨額の公的資金を預かる立場にありながら、同社では幹部によるパワハラや女性蔑視発言、賭け麻雀などが横行していたことをこの間、報じてきた。その結果、当サイトが報じた事案だけでなく、公益通報者保護法に抵触する疑いがある内部通報者への報復や、幹部による公私混同、現場社員によるセクハラ騒動まで、様々な内部告発が寄せられている。(本記事は、月刊誌『ZAITEN』21年4月号に寄稿した記事に一部修正加筆を加えたものです)
女性蔑視の運用部門
■昨年に日興アセットの事案を報じて以降、世間では、東京五輪組織委会長だった森喜朗の女性蔑視発言が話題となり、森会長は国際的に批判を浴びて辞任した。この点、当サイトが報じた日興アセットCIO・最高投資責任者の辻村祐樹は、森会長のジェンダー感覚と近い。
■辻村は日興アセットの運用部門幹部が集まるオフィシャルな食事の席で「日本の女は産休が長すぎる」「女はすぐに会社を辞めるから困る」と公言していた。さらには、「女は嫌いだから、中途採用するな」とも人事に対して述べていたようで、実際に、辻村の管轄である運用部門の女性比率は1割以下。女性管理職は皆無(当時)である。これは女性蔑視発言が辻村個人の見解ではなく、日興アセット運用部門の組織的風土であることを示している。
■もし仮に、前述のような考えの持ち主が組織のトップにいる場合、女性は産休を取るだけで評価を下げられてしまうだろう。子供を産まずに働いていたとしても、欠陥品のような扱いを受けてしまうのは必定。つまるところ、女は働くな、というのが発言の主旨である。
■しかし、日興アセットやその親会社・三井住友トラストは、辻村のパワハラ、女性蔑視発言の事実を認識し、報道でもその実態を目にしているにも関わらず、未だ処分は行わずに、反対に内部通報者に降格処分を下す裁定をした。
■「お子様やお孫さんのために何ができるかを、一緒に考えていきましょう」―――人気俳優・佐藤浩市が年配の顧客にこう語り掛ける、三井住友信託のテレビCM。だが実態は、佐藤浩市のセリフとは裏腹に、後世が極めて生きづらい価値観を持つ人間を要職につけていることになる。
■三井住友トラストは親会社でありながら、日興アセットに対してガバナンス不全に陥っている可能性がある。元常務の佐谷戸と、取締役の西田豊を送り込んでいるが、社長の安倍以下、CIOの辻村、最高法務・コンプライアンス責任者(CLO・CCO)の森田收といった現場の実権は日興証券出身者に握られている。そしてこの間に当サイトが得た情報によると、運用部門だけでなく、牽制機能となるべきコンプラ部門が深刻な状況になっているようだ。
コンプラ部門自体が問題
■昨年9月、日興アセットの子会社で、機関投資家向け営業を専門としていた「日本インスティテューショナル証券」の営業部長が、古巣の野村證券から法人顧客の取引情報を不正入手していたことが明らかになった。この事案は、営業部長の部下の女性が、パワハラで悩み日興アセットの内部通報窓口に駆け込み発覚。11月に社長だった今井幸英が退任し、経営体制の変更をリリースした。
■一連の経緯を見ると、内部通報制度が有効に機能したかのように見える。ところが、実は内部通報した女性社員が昨年9月頃から休職に追い込まれていた。「女性は内部通報後に日興AMのETF事業部に異動となりましたが、実質、人事部の管理下に置かれていた。当時の人事部長は『彼女も不正を知っていて、数カ月黙っていたのだから処分すべきだ』と息巻いていた。内部通報者が誰かは社内で知られていましたから、居づらくなって休んだのでしょう」(同社関係者)
■実は証券子会社の社長は二人代表制で、もう一人は、日興アセットでコンプライアンスを司るCLO・CCOの森田だったのだ。ところが、森田の管理責任は問われず。さらなる問題は、ここにきて森田自身に対するハラスメントで内部通報が挙がっていることだ。
■「森田専務は昔、日興証券で人事担当だったからといって、人事部の業務に口を出したり、人事部の女性社員を私的に食事に誘うなどの越権行為が目立っていた。コロナ禍でほとんどの社員がリモート勤務をしているのに、森田さんはそれに対抗していて、自分の部下には出社を強要し、会議中もマスクをしないで大声を出していて、部下たちは嫌がっています」(前述とは別の同社関係者)
■日興アセットでは建前上、内部通報はコンプラ部門と人事で構成される「内部通報審議会」で調査・検討することとなっている。ところが、森田はコンプラ部門のトップでありながら人事部にも出入りしており、コンフリクトなく内部通報を審議できない状況となっている。
■そもそも、森田は弁護士経験などなく、法令やコンプライアンスの専門家ではない。コンプラ担当として誠に不適切と言わざるを得ないが、話を聞くと、この部署全体がコンプラ軽視の体質となっているようだ。「コンプラ部門の半分近くは、日興証券の出戻り組が占めています。つまり日興証券を出た後、他の運用会社や証券会社に転職したが上手くいかなかった人の腰掛け部署に成り下がっています」(同前)
取引先にセクハラの〝マラカス事件〟
■当サイトには他にも日興アセットの内部告発が寄せられている。そのひとつが「マラカス事件」だ。日興アセットの運用部門は外資系証券会社のセルサイドのアナリストから接待を受けることが多かったという。ところが数年前、日興アセットのアナリストが飲み会の場で、外資系証券会社のセルサイドアナリストの女性の体を、音を奏でるマラカスでなぞり、証券会社からクレームが入ったという。
■他にも、日興アセットの幹部が、自分の主治医に会社の経費でカニを贈っているなど、ケチな私的流用が行われているという。巨額の公的資金を預かる運用会社とは思えない実態が明らかになりつつある。三井住友トラストなどの上層部がケジメをつけられない合間に、現場の意識は腐り、“学級崩壊”は進んでいる(文中敬称略)。
2020年12月14日付レポート:GPIFや日銀の巨額公的資金を運用「日興アセットマネジメント」の常軌を逸したコンプラ意識(1)CIO・最高投資責任者によるパワハラ、女性蔑視、「賭け麻雀」が常態化
2020年12月24日付【記事紹介】日興アセット「パワハラ専務」内部告発 『ZAITEN』21年2月号
2021年1月12日付:【記事紹介】顧客情報不正入手の日興アセット子会社「日本インスティテューショナル証券」で内部通報者が休職に 『FACTA ONLINE』