■今年1月に米系PEファンド・ベインキャピタルを背景にしたMBOを試みた東証一部広済堂(社長・根岸千尋)。形式上MBOの体裁を取っていたものの、出だしから「単なる身売り」だという批判があがり、アクティビスト投資家として知られる村上世彰らが対抗TOBを仕掛け、4月に不成立となった。その後、12.41%を持つ筆頭株主(3月末時点)の澤田ホールディングス(社長・上原悦人)、創業家の櫻井美江、対抗TOBに出た村上系列の3者で「戦後処理」がどのように進むか、市場関係者の関心を集めていた。
■そうした中で7月2日、広済堂は澤田ホールディングスが持ち株全てを売却する予定であると公表。しかし、売却の相手方は「不明」だった。7月末にようやく大量保有報告書が提出されるも、明らかになったのは「グローバルワーカー派遣株式会社」なる実態不明の法人。だが当サイトの調べでは、澤田ホールディングスから広済堂株を実質的に譲り受けたのは、免税店「ラオックス」社長・羅怡文である可能性が高い。
■澤田ホールディングスの会長・澤田秀雄(エイチ・アイ・エス会長)と羅は親しい関係にあると見られる。澤田ホールディングスは2016年、ジャスダック上場のマンションデベロッパー・アスコットの株式を中国の保険会社・平安グループに売却したが、羅はその後の臨時株主総会でアスコットの社外取締役に就いており、このディールに関与していたと思われる。そもそも「グローバルワーカー派遣」の社長は羅がオーナーを務める中国語新聞「中分産業」の社長が兼務しており、本店所在地は同社麻布事務所と同じ場所にあり、関係性は明らかだ。
■MBO後の広済堂の役員構成を見ると、既に「ラオックス参入」は既定路線だったとも思える。広済堂に入った6名の社外役員は、澤田ホールディングス、櫻井、村上系列の3派からそれぞれ送り込まれている。例えば社外取締役の渥美陽子は、村上系レノの代理人を務めている。社外監査役の中辻一夫は一連の騒動の中で、常に櫻井側で動いていた。
■派閥が明確に判別しがたい他の役員のうち2名は羅とかかわりをもっている。社外取締役の松沢淳はラオックスで経営企画室にいた経歴があり、社外監査役の加藤正憲はアスコット子会社シフトライフの監査役を務めている。
■不採算事業整理と資産売却による株主還元を得意とする村上系に対して、ラオックスの羅は事業継続に関心が高いと思われ、投資スタイルは異なっている。どちらがイニシアティブを握るかで、広済堂の将来は大きく異なるだろう。
(文中敬称略)