金融グループJトラスト、アジア投資の「負の連鎖」(1)タイ転換社債「Gloup Leas」で訴訟戦術が裏目、短期利益追求で巨額損失 中経を重視か


2019年3月期に200億円の損失を計上したタイ金融会社・Gloup Lease(以下GLとする)への転換社債投資。Jトラストが提起していた訴訟は相次いで敗訴し、本来償還されるはずの社債も返済されていない。失態に次ぐ失態を重ねているGL案件に着手した背景を探ると、藤澤の短期利益を追求したことによる「戦略ミス」が浮き彫りになってきた。
■JトラストがGLに巨額資金を投じた最も大きな動機は、2013年7月にライツオファリングで970億円を調達したことだろう。これを①国内金融事業の強化、②国外金融事業の強化、③不動産やアミューズメントなどの事業の強化、④整理回収機構(RCC)への債務解消、⑤財務基盤の強化、に充てるとしていた。
■GLの投資案件が浮上したのは調達資金の運用先を探していた矢先だった。当時GL社長・此下益司と藤澤が初会談したのが15年1月で、投資実行はその年の3月だ。実際、GLへの投資に関する会計事務所のデューデリジェンスは、藤澤の意向で僅か1週間に期限が切られた。GLへの投資は「投資事業セグメント」に区分されており、シンガポール子会社J Trust Asiaの取締役に名を連ねる一部の最高幹部だけで意思決定されていた。
■しかしなぜ投資判断を急いたのか。ライツの調達資金の運用先に困っていたという事情もあるが、考えられる理由は、GLとの取引が早期に利益計上ができる魅力があったからだろう。JトラストはGLの転換社債を、株式転換することができる新株予約権部分と、社債部分で分けて認識することで、GLの株価が上がれば利益を計上できるようにした。
■実際、GLの株価は投資前に5タイバーツ前後だったものが高騰、16年末頃には60タイバーツに上昇。Jトラストは15年3月に30百万ドル16年8月に130百万ドル17年3月に50百万ドルの転換社債を取得していた。これにより16年3月期に約2,600百万円、17年3月期第3四半期(16年3-12月)に4,603百万円の評価益を認識することができた
■また、16年の2度目の投資に際しては、転換社債の条件交渉の中で、手数料や金利を低くしたり、転換価額を高く設定するといったGL側に利益となる条件をのむ代わりに、約10%をJトラストが買収したBunk J Trust Indonesiaへの出資に回すという“密約”も結んでいた。
■しかし17年3月頃から、タイ証券取引委員会がGLの一部の取引に疑義を呈し、GL株価は暴落し、新株予約権部分は損失に形を変えた。GL株価は再び一桁バーツ台に下落した。本来ならJトラストは、GL株価下落による評価損を甘んじて受け入れ、16年10月の130百万ドルは5年後、17年3月の50百万ドルは3年後の満期を待つしかなかった。だがJトラストは、タイSECが問題視した取引を理由に、まだ株式化されていない転換社債180百万ドル分について、GLによる表明保障違反や詐欺を主張し、契約の解消した。
■この態度決定には「一石二鳥」を得る算段があったと思われる。契約解除によりGLの転換社債の認識を改め、債権区分変更により5,386百万円の収益を計上することができる。また詐欺や契約解除を理由にタイやシンガポール、英領ヴァージン諸島、キプロスなど世界各地で損害賠償請求訴訟や会社更生申立て、資産凍結申立てを行うことで、GLの企業活動を実力阻止し、Jトラストの傘下に下るよう、暗に要求していた
■しかし、タイSECが問題視した取引はJトラストが転換社債契約を締結した後に実行されたものであり、問題の取引により粉飾された財務諸表で騙されて投資をしたわけではない。そもそも当サイトで報じた通り、シンガポール高等裁判所はJトラストの役員がだれもGLの財務諸表を詳しく見ておらず、投資意思決定に重要な影響を及ぼしていない。
■結果的に、詐欺による契約解除の主張は認められず、今年2月、180百万ドルの損害賠償請求訴訟を争っていたシンガポール高等裁判所で敗訴。さらにGLがカンボジアで30億円の損害賠償請求訴訟には敗訴し、23億円の支払い命令をうけてしまう。戦略は裏目に出て、「一石二鳥」どころか、「二兎を追う者は一兎をも得ず」が相応しい状況となった。
■このような事態に至るリスクを負ってでも、契約解除を選択したのには、藤澤の「ハゲタカ投資家」としての本能に加え、2018年3月期決算を良い数字にしたいという誘因もあったと思われる。Jトラストにとって18年3月期は15年に策定した中期経営計画の締めの年として重要な意味を持っていた

10.3 11.3 12.3 13.3 14.3 15.3 16.3 17.3 18.3 19.3 19.12
営業収益 16,541 16,908 24,508 55,683 61,926 63,281 75,478 85,031 76,266 74,935 58,105
営業費用 3,297 5,132 4,539 20,786 26,339 29,285 38,957 43,963 50,224 78,253 35,706
粗利益 13,244 11,776 19,969 34,897 35,587 33,996 36,521 41,068 26,042 -3,318 22,399
販管費 4,185 7,451 14,429 22,892 21,841 39,214 40,635 46,837 25,493 28,488 27,370
営業利益 4,165 4,324 5,539 12,005 13,745 -5,217 -4,114 -5,769 2,355 -32,600 287
税引前利益 4,108 3,233 34,500 13,309 11,145 10,143 -5,712 -9,876 416 -31,135 -312
総資産 37,999 37,862 117,546 218,706 334,736 540,718 508,659 608,650 656,961 668,377 731,268
純資産 11,006 13,962 49,472 70,896 184,231 194,866 168,657 151,664 150,777 110,727 118,953

(単位:百万円 有価証券報告書より抜粋)
■そのために、契約解除による債権区分変更というテクニカルな収益計上を敢行したのではないかという疑惑が浮上する。また、辻褄が会わないのが翌19年3月期は一転してGLに対する債権全額に貸倒引当金を計上していることだ。そもそもGLは債務超過ではないし、引当金を全額計上するにしても、18年2月にGLが実質破綻しているという前提で会社更生を申し立てているのだから、巨額引当ならば18年3月期に計上されるべきではないか。さらにJトラストについて調査を進めると、ライツによる調達資金で最大の投資案件だったインドネシア銀行、Bunk J Trust Indonesiaがいま、極めて深刻な状況に陥っていることが分かった(つづく)。
(文中敬称略)

2020年3月17日付レポート:金融グループ「Jトラスト」の誤算 シンガポール高等裁判所で露呈した粗略な意思決定 財務分析なく巨額投資を実行か

2019年10月1日付レポート:【ミニ情報】ジャスダック上場SAMURAI&J PARTNERS、融資先から証券子会社がコンサルフィー徴収 利息制限法を潜脱か

2018年6月26日付レポート:【ミニ情報】ジャスダック上場KeyHolder、「秋元康関与」のインサイダー情報事前漏洩、「情報伝達・取引推奨規制」に違反か

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