金融グループJトラスト、アジア投資の「負の連鎖」(2)インドネシア「Jトラスト銀行」の泥沼 黒字達成の裏に「不良債権の山」


■Jトラストは13年7月、ライツオファリングで約1000億円を調達したが、この資金の最大の投資案件が14年11月に43,243百万円で買収したインドネシアの商業銀行・ムティアラ銀行(現・Bunk J Trust Indonesia、以下BJI)である。買収により計上されたのれんは37,017百万円で、19年12月期時点でも28,330百万円ののれんが計上されている。
■BJIの前身はBank Centuryといい、08年に破綻して600億円超の公的資金が注入された一方、当時のユドヨノ政権幹部が同行から不正資金を受領していた疑惑が浮上した。ムティアラ銀行と名前を変えた後、インドネシア預金保険公社の管理下に置かれ、入札によりJトラストが取得した。ニュースサイト『Asia Sentinel』はJトラストの買収額を、東南アジアの銀行買収で最も高額だと評している(“The sale price is believed to have been the highest book-value premium for a bank in the history of Southeast Asia.”)。
■買収後もBJIに対する資金注入は継続している。15年3月期に5,640百万円、16年3月期に3,286百万円、17年3月期に8,500百万円を増資。子会社J Trust Asiaを通じても15年3月期、18年3月期、19年12月期に合計60百万ドルを融資し、一部は株式化されている。19年3月期にも3,120百万円がJトラストから融資されており、投資金額は買収資金と合わせて700億円近くになる。
■買収当初の赤字は想定の範囲内だったと思われる。2017年5月に掲載された『Fujisankei Business i』の連載「Jトラスト インドネシア戦略」によると、買収間もない15年3月期、16年3月期はリストラのため50億円超の赤字を計上したが、17年1月~3月は四半期ベースで黒字化したという。その結果、17年3月期の純利益は△6,047百万円の赤字だったが、18年3月期の純利益は2,300百万円と黒字化に成功した。BJIは中期経営計画でも主力事業の一つとして位置づけられており、18年3月期以降も拡大を予定されていた

(百万円) 16.3 17.3 18.3 19.3 19.12
営業収益 11,871 16,870 13,845 11,779 6,710
純利益 -6,047 -7,883 2,300 -5,866 -331
純資産 8,783 8,528 8,157 383 866
総資産 116,014 132,672 162,836 137,497 129,679

(BJI損益情報等 有価証券報告書ベース)

■しかしその後の決算は減収、赤字転落する。BJIの財務諸表を見ると、収益源である貸出金の減少が顕著である。貸出金は18年3月期の90,791百万円を境に減少の一途で、19年12月期時点で38,470百万円にまで減少した。四半期で見ると、18年10-12月頃から貸出金利が預金金利と同水準に低下し、19年4-6月期には預金金利が上回る逆ザヤ状態に陥っている。貸出金に代わってポートフォリオを増やしているのが有価証券だが、有価証券利息の利率は預金と同程度であり、銀行収益の柱である利ザヤは得られない。19年12月期時点でBJIの収益構造は相当に悪化していたと言える。

2018

2019

 (百万円) 4-6月 7-9月 10-12月 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月
貸付残高 93,244 90,436 75,062 63,577 48,632 43,721 38,470
利息収入 2,378 2,474 1,974 2,198 1,523 1,501 1,342
貸出利率 10.20% 10.94% 10.52% 13.83% 12.53% 13.73% 13.95%
有価証券 21,263 24,306 27,433 30,302 26,128 24,852 33,336
有価証券利息 386 367 437 530 459 504 536
有価証券利率 7.26% 6.04% 6.37% 7.00% 7.03% 8.11% 6.43%
預金 119,257 116,400 116,733 123,677 103,980 101,228 115,752
預金利息 1,940 1,847 1,973 2,131 1,935 1,829 1,848
預金利率 6.51% 6.35% 6.76% 6.89% 7.44% 7.23% 6.39%

Jトラストの開示より抜粋した、BJIの四半期ごとのPL及びBS)

■赤字体質のBJIに度重なる資本注入を余儀なくされたのは、インドネシアによる自己資本規制に抵触することを避ける意味合いがあったと思われる。だが前述の通り財務状況は悪化の一途で、19年12月期時点でBJIの純資産はわずか866百万円である。そしてこのわずかな自己資本は、Jトラストによる増資だけでなく不良債権を関係会社に移転することで維持されたものである。BJIは不良債権をJトラストのインドネシア子会社PT JTRUST INVESTMENTS INDONESIA(JII)に譲渡している。不良債権額は18年10-12月に約9,000百万円、19年1-3月に約4,000百万円、19年4-6月に約7,000百万円、19年10-12月に約7,000百万円というペースで増加している。BJIの自己資本維持のために「追い銭」を強いられていると思われる。

BJI 18/3 18/06 18/09 18/12 19/03 19/6 19/9 19/12
現預金 11,907 4,914 3,796 7,773 9,370 5,729 5,025 8,657
貸付残高 90,791 93,244 90,436 75,062 63,577 48,632 43,721 38,470
有価証券 26,939 21,263 24,306 27,433 30,302 26,128 24,852 33,336
その他資産 5,357 12,712 12,349 23,069 34,248 39,482 41,383 49,216
貸倒引当金 -8,022 -10,066 -10,536 -8,237 -10,136 -7,032 -7,967 -2,407
総資産 134,994 132,133 130,887 133,337 137,497 119,971 114,981 129,679
自己資本 8,157 5,119 3,348 2,594 383 3,535 1,478 866
不良債権残高 2,335 3,249 3,978 8,353 6,437 2,077 3,228 733
貸倒引当金 8,022 10,066 10,536 11,328 10,136 7,032 7,967 2,407
JII 18/3 18/06 18/09 18/12 19/03 19/6 19/9 19/12
買取債権 773 849 1,347 10,447 14,422 22,080 21,685 29,663
貸倒引当金 -25 -43 -7,685 -11,312 -15,580 -15,450 -18,271
有利子負債 2,072 2,042 3,252 3,033 3,073 2,233 2,074 2,805
その他負債 N/A N/A N/A 9,064 13,111 20,871 20,623 27,951

(単位:百万円、BJIとJIIの四半期ごとのBS)

■さらなる問題は、JTIに移転した不良債権がいつの時点で貸し込まれたかということだ。Jトラストは19年2月13日付の適時開示で、〈連結子会社であるPT Bank JTrust Indonesia Tbk.において、買収前からの負の遺産である不良債権を一括して処理し、それに伴って、事業セグメントとして、108.4億円の損失を一挙に計上するとともに、連結子会社であるPT JTRUST INVESTMENTS INDONESIAに移転された不良債権の回収に尽力することにより、サービサー業務での業績の今後の急回復を実現するための基盤を作りました〉と開示している。これにより東南アジア事業セグメントは19年3月期△17,712百万円、19年12月期は△4,647百万円と連続して赤字となった。
■Jトラストの開示を見ると、BJIがJIIに譲渡した不良債権は買収する前のもので、Jトラスト経営陣に責任は無いように読める。だが実際のところ、不良債権の大半はBJIが傘下に入った後に貸し込まれたものの可能性が高い。有価証券報告書の銀行業における貸出金(インドネシア)を見ると、JIIへの譲渡によって消滅したと思われる貸出金の多くは、法人向けの不動産業、加工業、卸売り・小売業に対するものである。そのうち、不動産業の貸出金の大半は、18年3月期中に融資実行された不動産業に対するものだ。

(百万円) 金融業 不動産業 加工業 卸売・小売業 宿泊・飲食業 運輸倉庫・通信 その他 法人向け合計 個人(担保付) 個人(無担保) 個人向け合計 融資額合計
17.3 4,945 1,948 21,529 18,464 7,591 5,706 4,057 64,244 20,966 4,369 25,335 89,580
18.3 5,308 18,107 14,792 13,649 4,830 1,157 8,477 66,323 19,987 4,472 24,459 90,783
19.3 8,920 3,798 13,410 15,952 3,782 4,030 5,778 55,973 8,203 3,093 11,296 66,969
19.12 9,183 559 798 3,158 790 89 758 15,338 8,346 23,835 32,182 47,520

(有価証券報告書「銀行業における貸出金(インドネシア)」)

■BJIが無謀な融資を敢行した18年3月期は、前述の通りBJIが祈願の黒字決算を達成し、それによってJトラストの連結決算も黒字化した決算期である。Jトラストにとっては中期経営計画の区切りをつける重要な決算であり、前掲レポートで指摘したGLへの転換社債契約を解除して収益を計上するという、テクニカルな利益計上が敢行されていた。

(百万円) 10.3 11.3 12.3 13.3 14.3 15.3 16.3 17.3 18.3 19.3 19.12
営業収益 16,541 16,908 24,508 55,683 61,926 63,281 75,478 85,031 76,266 74,935 58,105
営業費用 3,297 5,132 4,539 20,786 26,339 29,285 38,957 43,963 50,224 78,253 35,706
粗利益 13,244 11,776 19,969 34,897 35,587 33,996 36,521 41,068 26,042 -3,318 22,399
販管費 4,185 7,451 14,429 22,892 21,841 39,214 40,635 46,837 25,493 28,488 27,370
営業利益 4,165 4,324 5,539 12,005 13,745 -5,217 -4,114 -5,769 2,355 -32,600 287
税引前利益 4,108 3,233 34,500 13,309 11,145 10,143 -5,712 -9,876 416 -31,135 -312
総資産 37,999 37,862 117,546 218,706 334,736 540,718 508,659 608,650 656,961 668,377 731,268
純資産 11,006 13,962 49,472 70,896 184,231 194,866 168,657 151,664 150,777 110,727 118,953

(過年度のJトラストの連結損益情報)

■しかし、翌19年3月期は300億円超という空前の巨額損失となっている。これは主に、GLへの転換社債と、BJIの不良債権への引き当てによるものである。BJIではGLと同様に、18年3月期の利益計上の「反動」として、19年3月期に巨額損失を計上しているのである。こうした事情を知ると、Jトラストの希少な黒字決算は額面通りに受け取れない(つづく)。
(文中敬称略)

2020年4月30日付レポート:金融グループJトラスト、アジア投資の「負の連鎖」(1)タイ転換社債「Gloup Leas」で訴訟戦術が裏目、短期利益追求で巨額損失 中経を重視か

2020年3月17日付レポート:金融グループ「Jトラスト」の誤算 シンガポール高等裁判所で露呈した粗略な意思決定 財務分析なく巨額投資を実行か

2019年10月1日付レポート:【ミニ情報】ジャスダック上場SAMURAI&J PARTNERS、融資先から証券子会社がコンサルフィー徴収 利息制限法を潜脱か

2018年6月26日付レポート:【ミニ情報】ジャスダック上場KeyHolder、「秋元康関与」のインサイダー情報事前漏洩、「情報伝達・取引推奨規制」に違反か

 

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