■新聞印刷に不可欠な輪転機メーカー大手・東京機械製作所(東証1部上場)の株式が、東証2部上場のアジア開発キャピタルに市場で大量取得され、買収防衛の是非を巡り報道が相次いでいる。東京機械は先月下旬、買収防衛策の導入を求めて臨時株主総会を開催した。臨総ではアジア開発側を利害関係者として排除した議決権集計が行われ、買収防衛策が賛成多数で可決された。とはいえ、ポイズン・ピル発動後も、アジア開発は約3割を握る主要株主として残るわけで、状況は本質的に変わらず。対立が深まった分、むしろ悪化と見ることもできる。
■東京機械は今回の攻防戦を、西村あさひ法律事務所を中心に、メディア対策はパスファインド、プロキシーアドバイザーは東証1部アイ・アールジャパン(社長・寺下史郎)という、2019年の「LIXIL攻防戦」における会社側と同じ布陣で臨んだようだ。
■当サイトは今年4月頃から、アイ・アールジャパンに対して徹底的な批判を行っているが、ここ東京機械攻防戦でも、アイ・アールジャパンのダブル・スタンダードぶりが目に余った。東京機械が9月末に発送した、買収防衛策導入を諮る臨時株主総会招集通知。その3頁目には、「本臨時株主総会における議決権行使の公正性を害する行為への対応について」という異例の警告文書が添えられていた。
〈QUOカードその他の金品を配布して委任状や議決権行使の勧誘を行う等、経済的利益の提供を誘引として委任状を取得し、又は議決権行使書等による議決権行使を促す方法…を用いて、委任状や議決権行使書等による株主の議決権行使に不当な影響を及ぼした事実(以下「本不正行為」といいます。)が客観的に確認された場合には、本臨時株主総会における議決権行使の公正性を害するものとして、本不正行為により取得された委任状に基づく議決権行 使、及び本不正行為を受けてなされた議決権行使書等による議決権行使は、いずれも無効として取り扱う場合がございます〉
■一見、会社側・株主側のどちらを名指しするでもない「ご注意」だが、注記にて「不正行為」の一例として引き合いに出されているのが、アジア開発側代理人の大塚和成弁護士(OMM法律事務所)である。ジャスダック上場プラコーの臨時株主総会にて委任状による議決権行使の謝礼としてQUOカードが配布された事案を挙げ、プラコー株主の代理人をしていた大塚弁護士の関与を示唆している。アジア開発は今回、QUOカード配布などを行っていないが、招集通知でも抜かりなくネガティブキャンペーンをしておきたいという東京機械の意地が透けて見える。
■こうした開示文書の作成や株主向け世論形成は、アイ・アールジャパンがプロキシーアドバイザーとして請け負う領域であり、上記の警告文書も同社が入れ知恵している可能性が高い。だが、総会におけるQUOカード配布は、アイ・アールジャパンも使う戦術である。例えば、昨年にあった東証1部CEホールディングスとマザーズ上場駅探の対立。駅探側に付いたアイ・アールジャパンは、株主宛てに「株主さまアンケート」を実施。これに応じた株主にはQUOカード500円分を配布していた。
■むろん、アイ・アールジャパンの目的はアンケートではなく、応募者の電話番号を入手し、架電にて委任状を会社に送付するよう働きかけることだったようだ。これこそ、警告文書が言うところの〈経済的利益の提供を誘引として委任状を取得し、又は議決権行使書等による議決権行使を促す方法〉ではないのか。
■また、今回の臨総で東京機械が株主向けに発送した議決権行使書面は、会社側に賛成する旨の委任状が1枚の用紙に連なった「一体型」のものである。この「議決権行使書面兼委任状」はリクシル、天馬、駅探など、アイ・アールジャパンが過去に関わった案件で会社側が用いることが多いが、これも専門家の間で「株主の誤解を招き、不公正」との批判が多い。
(文中敬称略)
2021年4月26日付レポート:「株主総会の用心棒」アイ・アールジャパンの〝二重基準〟(1) HISvs.ユニゾ、駅探Vs.CEHD攻防戦で〝ひとり芝居〟
2021年5月10日付レポート:「株主総会の用心棒」アイ・アールジャパンの〝二重基準〟(2)東証2部プロスペクト攻防戦に不可解な「個人会社」介在 副社長の〝役得〟か
2021年6月30日付レポート:「株主総会の用心棒」アイ・アールジャパンの〝二重基準〟(3)天馬「創業一族の争い」でも跋扈 会社側から株主側へ寝返り