金融グループJトラスト、アジア投資の「負の連鎖」(3)シンガポール子会社が「株式不正取得」を香港コンサル会社に依頼 藤澤ら最高幹部が決裁


■問題のCougar社の株式不正取得を依頼したPerun社とのコンサル契約書
■問題のCougar社の株式不正取得を依頼したPerun社とのコンサル契約書

■東証2部上場金融グループ・Jトラスト(社長・江口譲二、会長・藤澤信義)がライツオファリングの調達資金により、鳴り物入りで買収したインドネシア・Jトラスト銀行(旧・ムティアラ銀行)の資金流出が止まらない。前回のレポートで述べた通り、400億円超での買収後も債務超過を回避するため、断続的に200億円を超す資金注入が続き、さらに約270億円分の不良債権を別会社J TRUST INVESTMENTSに移転し自己資本を維持した。にも関わらず、2020年12月期第1四半期も預金利息が貸出利息を上回る逆ザヤ状態が続き、ついに債務超過に転落した。
■Jトラスト銀行はインドネシア政府からの買い物であるだけに、おいそれと破綻させることもできず、今後もJトラストに及ぼす損失は底が見えない。Jトラスト銀行はアジア経済への進出拠点どころか、厄介な足かせとなっている。
■インドネシア銀行買収により被った災難はこれだけではない。不良債権を得意とする「ハゲタカファンド」の米Weston Capitalが、Jトラスト銀行の前身・Bank Century時代に発行された転換社債を野村インターナショナルから取得し、Jトラスト銀行となった後、世界各地の裁判所で債務の履行を求めて訴訟を提起したのだ。
その訴訟価額は合計約435億円にものぼる。Jトラストの開示によると、Weston CapitalはBank Century時代の債務の履行だけでなく、Jトラストや、JTIによる詐欺やマネーロンダリングによって受けた損害賠償も求めている。この事案に詳しい香港のニュースサイト『Asia Centinel』によると、裁判所の命令で凍結されていた資金を、Jトラストが不正に移転させたとのことだ。
■しかし、Jトラストは〈原告らの主張は、不合理かつ事実無根のもので、何ら理由がない〉と一蹴するのみで、どのような不正を指摘されているか、開示だけでは分からない。さらに、今年2月にはWeston Capitalが2015年にシンガポールで提起していた訴訟の判決があり、Jトラストは勝訴したようだが、その開示さえ行われていない。
■このように、アジア投資のトラブルに関するJトラストの適時開示は、Jトラストにとって不都合と思われる事実を明示せず、希望的観測ばかり強調された選択的・部分的な開示となる傾向がある。その体質を示す事案が、当サイトの連載第1弾で報じたタイ小口金融Group Lease(以下、GL)との紛争に関する開示だ。
■GLの親会社ウェッジホールディングスは19年4月、カンボジア検察が藤澤、取締役の足立伸ともう一人を詐欺などの罪で起訴したという衝撃的なプレスリリースを公表した。Jトラストはこれを否定したが、上場会社が上場会社に犯罪行為を指摘するという前代未聞の事態にも関わらず、具体的な開示は行われていない。そこで今回、シンガポール高等裁判所に提出された証拠資料により、この事案の発端は、Jトラストによる不正な株式取得にあることが明らかになった。
■この事案はGLの関係先のシンガポール法人Cougar Pacificの支配権に関するものである。本連載第1弾で既報の通り、Jトラストは18年頃から、GLやその親会社ウェッジホールディングスと紛争状態に陥った。Cougar社はGLの貸付先であり、ブラジルで農園や不動産を運用していた。
■Cougar社の実際のオーナーは㈱久我の久我洋一であるが、ノミニーと呼ばれる匿名化制度を利用していた。すなわち、Cougar社の株主は、ルクセンブルグのペーパーカンパニーであるPacific Opportunities Holdings S.a r.L(以下、POH)であり、POHの株式はノミニーのTep Rithivitというカンボジア人の所有となっていた。
Jトラストは17年末頃から、GLやウェッジ社と並び、Cougar社にも損害賠償請求訴訟をシンガポール高等裁判所に提訴し2018年12月に東京地裁に久我洋一らに訴訟を提起している。実はこの裏で、この民事訴訟と並行してCougar社株式の不正取得を画策。香港、シンガポールに拠点を置くPerun Consultantsに依頼したのである。
18年2月、シンガポール高等裁判所は、JトラストがCougar社に対して請求していた資産凍結命令を解除した。Jトラストはこれを受け、18年5月に顧問弁護士を通じて、Perun社の香港事務所に「Tepから株式を取得し、別のノミニーに移す」ことを依頼。Perun社はJトラストの情報を基にTepに接触し、18年6月12日付で、POH株式を1ドルで取得し、別のペーパーカンパニーであるSaronic名義にした。
ノミニーは真の所有者から名義貸しを委託された株主であり、ノニミーが委託者の意向に反して勝手に財産を処分することはできない。しかし、Perun社によるPOH株式取得は真の所有者である久我に秘密裏に敢行された。久我はこれを受け、ルクセンブルグや香港でTepやPerun社関係者と訴訟を起こしていた。その過程でJトラストが依頼人と判明し、19年4月にカンボジアで告訴されたのだ。
■その半年後の19年10月、シンガポール高等裁判所であった証人尋問で、問題のPOHの株式譲渡がJトラストの指示で敢行されたことが明らかになった。Perun社のマネージングディレクターで、本件を担当したGwynn David Nevill Hopkinsが証人出廷し、Jトラストが220百万米ドルの費用を負担したことや、依頼があった当初から、Tepがノミニーに過ぎないことがJトラスト側から説明されていたことを証言したのだ。
―――以下、Hopkinsの証人尋問調書の一部(反対尋問)翻訳は当サイトによるもの―――
Q. You knew at the time you bought these shares from Mr Tep Rithivit that he was not the beneficial owner, correct?(Tepから株式を取得した時、彼が実質的なオーナーではないことを知っていましたよね?)
A. Again, I knew that was a matter of dispute.(繰り返しになりますが、それについて議論されていることは知っていました)
Q. You knew he was just a nominee shareholder?(あなたは彼が単なるノミニーであることを知っていた?)
A. Indeed.(確かに)
Q. So that means he could not have been the beneficial shareholder?(彼は真の株主ではないということですか?)
A. If Mr Rithivit is correct in his assertions.(Rithivitの主張が正しければ)
Q. But that’s what J Trust instructed you. Are you saying that J Trust were not correct when they represented –(しかし、Jトラストの指示ではそうだった。あなたはJトラストの指示が正しくないと…)
A. No, I was –(いえ、私は…)
Q. Hang on, let me finish. Are you saying that J Trust was incorrect when they instructed you and told you that Mr Tep Rithivit is just a nominee shareholder?(ちょっと待ってください。TepがノミニーだとするJトラストの指示は間違っていたということですか?)
A. No. I’m saying that that was their understanding and that’s what they relayed to me.(いえ、それは彼らの理解であり、彼らが私に伝えたことだと言っている)
Q. And did you make any independent inquiries to ascertain who was the beneficial owner of POH when you bought the shares for $1?(あなたが1ドルでPOHの株式を取得した時、誰が真のオーナーか独自の調査を行いましたか)
A. No.(いいえ)
Q. You didn’t?(しなかった?)
A. Not beyond the material that’s already in evidence.(すでに証拠提出した資料以上にしていません)
Q. So were you not concerned that since you knew, based on J Trust’s instructions that Tep Rithivit was just a nominee, were you not concerned that when you bought his shares, you opened yourself up to issues with the true beneficial owner?(JトラストがTepがノミニーであると指示していたのに、彼の株式を取得した場合、真の受益者との間に問題が生じる心配はありませんでしたか?)
A. There is always a risk in any engagement, but as you will see from the engagement letter and surrounding documents, the holding of those shares is subject to an ultimate court determination of who the ultimate owner is. If it is found to be another individual, naturally, to the extent they have queries and concerns about the conduct, then that is something we will have to deal with. That is an inevitable consequence of taking an appointment of this nature.(契約には常にリスクが伴いますが、契約書や関連書類を見れば分かる通り、最終的に誰が株式の所有者かの判断は、裁判所に委ねられています。もしそれが別の個人であることが判明した場合、当然ながら、疑義や懸念があるならば、我々はそれに対処していきます。このような案件では必然的なことです)
―――ここまで―――
■反対尋問の攻防を見ると、Hopkinsにとって、Tepがノミニーであることを知って株式を譲渡させたがよほど後ろめたかったのか、あくまでTepがノミニーだという話はJトラストの主張に過ぎないという線を強調しているようだ。問題は、ノミニーから株式の不正取得を依頼したJトラストである。このようなコンプライアンス上問題の多い依頼を、現在のJトラスト取締役である藤澤や足立が取締役会で決議していたこともわかった。

■Perun Cousultantsとの契約にかかる取締役会議事録
■Perun Cousultantsとの契約を決議した取締役会議事録の一部

■シンガポール高等裁判所に提出されたこの資料によると、J Trust Asiaは18年5月24日付で、Perun社とPOHの株式取得に関するコンサルティング契約を締結。これを決議した取締役会議事録には、藤澤、足立、当時J Trust Asiaの取締役で、のちにJトラスト銀行の社長に就任した浅野樹美が署名していた。
■ノミニー契約に違反して株式を譲渡させるという手法に疑義はあるものの、形式的には18年6月12日時点で、POH及びCougar社の支配権はPerun社及びJトラストの手に渡っていたことになる。Jトラストは、GLとの紛争について「(開示事項の経過)当社のGroup Lease PCLに対する現状の認識について」と題する開示で適宜、Jトラストが優勢に見えるような戦況を事細かに開示していたにも関わらず、18年6月の株式取得は一切、伏せられている。
■例えば前述の18年12月の久我への訴訟の開示では、〈Jトラストアジアは、2018年12月18日、Cougar Pacific Pte Ltdの設立時株主であった株式会社久我(本店所在地:大阪市西区北堀江二丁目2番25号)、及び同社の代表取締役である久我洋一氏に対して、此下氏及びGLとの共同不法行為に基づく損害の一部として、約75億円相当の支払いを求める損害賠償請求訴訟を、東京地裁に提起いたしました〉としか記されていない。そもそも訴訟継続中に相手方の支配権を不正に取得するとは、上場会社の訴訟戦術としていかがだろうか。
■Perun社との契約に関する取締役会決議に名を連ねていた足立伸は財務省OBで、東京証券取引所の執行役員を務めた経歴もあり、コンプライアンスや情報開示に詳しいはずだ。それが一連の取引やそれに伴う適時開示で疑義を呈すどころか、ナンバー2として加担していた。
■GLとの紛争及びCougar社株式の不正取得の経緯を見ると、違法性が高い株式取得を取締役会決議するような社内状況では、Weston Capitalが主張するようなJトラストによる不正も、あながち〈不合理且つ事実無根〉ともいえないのではないか。
(文中敬称略)

2020年5月18日付レポート:【ミニ情報】東証2部プロスペクト巡るプロキシーファイト、「インサイダー取引」嫌疑の伸和工業が「Jトラスト」藤澤と野合

2020年5月7日付レポート:金融グループJトラスト、アジア投資の「負の連鎖」(2)インドネシア「Jトラスト銀行」の泥沼 黒字達成の裏に「不良債権の山」

2020年4月30日付レポート:金融グループJトラスト、アジア投資の「負の連鎖」(1)タイ転換社債「Gloup Leas」で訴訟戦術が裏目、短期利益追求で巨額損失 中経を重視か

2020年3月17日付レポート:金融グループ「Jトラスト」の誤算 シンガポール高等裁判所で露呈した粗略な意思決定 財務分析なく巨額投資を実行か

2019年10月1日付レポート:【ミニ情報】ジャスダック上場SAMURAI&J PARTNERS、融資先から証券子会社がコンサルフィー徴収 利息制限法を潜脱か

2018年6月26日付レポート:【ミニ情報】ジャスダック上場KeyHolder、「秋元康関与」のインサイダー情報事前漏洩、「情報伝達・取引推奨規制」に違反か

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