高すぎた業績予想に追い込まれるアイ・アールジャパン、「大型案件」の蜃気楼


■アイ・アールジャパンのコーポレートロゴ
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■アイ・アールジャパンホールディングス(東証1部6035、社長・寺下史郎)の株価が、この1年間でみるみる値下がりしている。昨年1月に1株19,000円、時価総額は3000億円を超えたが、それ以降は下落続きで、今年2月には3600円を割った。
■株価チャートを見ると、大きく値下がりする局面が3度あったことが分かる。いずれも決算発表の直後の取引だ。第1四半期決算発表後の8月11日、前日の14,090円から-18.8%の11,440円に急落。第2四半期発表後の11月1日も、前日比-17.1%の8,710円。そして今年2月の第3四半期翌日は、前日比-19.2%のストップ安で、4200円となった
■アイ・アールジャパンの業績が悪化しているわけではない。今期1Qは最高益更新と報じられているし、2Q、3Qも増収を維持している。結果を出しているのになぜ、決算のたびに売られるのか。その主な要因は、今期の業績予想が高すぎたことにある。22年3月期の通期予想は、売上高を前期比44.8%増の120億円としていた。だが今期実績のペースが予想達成に及ばないことが明らかになり、市場が失望していると思われる。
■アイ・アールジャパンの強気予想の根拠の1つが、「大型案件」の期ズレ計上である。昨年4月、2021年3月期の通期業績予想を売上高97億円から82億円とするなど下方修正を発表。その理由として「大型案件」の遅れを挙げ、22年3月期1Qには、ずれ込んだ11億円の売上が計上されると予告していた。
■ところが、今期1Q売上高は26億円(前年同期23億円)と前年同期に対し微増。そのうち大型案件は8.9億円で、前年同期より少なく、前期下方修正リリースで予告していた「期ズレ案件」の11億円にさえ満たない。決算説明会資料では、〈前期から受託している TOB 関連、資産売却等の一部の大型案件の実行時期が遅れが影響〉(原文ママ)と説明していた。これを見て、2Qには前期末、1Qからも繰り越された大型案件が計上されると期待する向きもあったのではないか。
■しかし、その期待はまたしても裏切られる。2Qも大型案件は前年同期と同額で、説明会資料では〈資産売却等の一部の大型案件の完全完了時期が遅れた〉とまた期ズレを示唆した。だが3Qの大型案件は前期28.8億円より少ない26.5億円。ここでも〈一部の大型プロジェクトの完了が第4四半期に延びた〉と記されている。1年間にわたり、大型案件の遅延が続いていることになる。
■そもそも大型案件は存在するのか。いかなる根拠で11億円の期ズレや、120億円の業績予想を策定したのだろうか。「アイ・アールジャパンの大型案件は、アクティビスト対応やM&Aなど、相手先の有事対応であることが多い。ディールや有事があるかどうかは相手次第ですし、別のアドバイザーが就くこともある。こうした不確実性が高い案件も、期ズレ分や予想に含めていたのではないか」とアイ・アールジャパン関係者は言う。
■実際に、1Qの大型案件実績値が、「期ズレ計上」される予定だった11億円より低い時点で、少なくない案件を1Q段階で取り溢していた可能性が高い。また、通期予想120億円の売上を達成するならば、2Q時点で60億円の売上があってしかるべきところ、2Q実績値は42.3億円で、差額は約18億円と予想売上高の10%超乖離している。本来ならこの時点で、下方修正を出すべきだったのでないか。
■業績予想に対する寺下の焦りは相当なもので、当サイト既報の通り、下半期に入って社員のボーナスを半減するなどの懲罰に及んでいる。厳しいペナルティを設定することで、営業マンの潜在能力を引き出し、不可能と思われた目標を達成する狙いがあるのかもしれない。だが、アイ・アールジャパンのノルマ制度は空回りしているようだ。
■「EC本部の営業マンが、アクティビストが介入してきた上場企業の資本提携案件を取ってきて、3億円近いフィーが当社に入ったんです。ところが、投資銀行部門の幹部がクライアントの提携先と親しいとかいう理由で、案件が投資銀行部門に取られてしまい、営業マンの実績にはならなかった。『この案件をノルマ達成分に入れると、残りの数字を頑張らなくなるだろう』とか言われたそうです。寺下社長は常日頃から『案件のフックをかけてきた人間を1番に評価する』と発破をかけていますが、現実には不条理がまかり通っています」(前出・関係者)
■アイ・アールジャパンが高すぎた業績予想に追い込まれて、ノルマやペナルティによる締め付けに着手しているのだとすれば、本末転倒と言うほかない(文中敬称略、つづく)。

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