【ミニ情報】証券取引等監視委が強制調査「テラ」インサイダー取引事件、金融商品取引法の適用除外「クロクロ取引」の壁


■関係者間のテラ株式の取引チャート(当サイト作成)
■関係者間のテラ株式の取引チャート(当サイト作成)

■証券取引等監視委員会と警視庁捜査二課が今年3月に強制調査に踏み込んだジャスダック上場バイオベンチャー・テラ(社長・平智之)を巡るインサイダー取引事件で、渦中の人物が民放のインタビューでインサイダー取引を否定し、捜査の行方が注視されている。テラは東大初ベンチャーとして09年に上場するも、18年に上場前から続いた主要取引先・医創会との不適切取引が発覚し、東大医科研出身の創業者・矢﨑雄一郎が退任。業績不振に加え、巨額の課徴金や第三者委員会の調査費用などで窮地に立つも、昨年5月頃から新型コロナ治療薬開発に乗り出し、株価が高騰していた。
■テラがコロナ治療薬開発に乗り出したのは、20年4月27日にCENEGENICS JAPAN株式会社(社長・藤森徹也、以下セネ社)と提携してからだ。以後、セネ社がメキシコで進めているコロナ治療薬の開発状況をつぶさに開示し株価を刺激した結果、公表前100円台が6月上旬には2000円台まで達した。
■セネ社を実質的に支配していたのが竹森郁という人物である。テレビ朝日の報道によると、監視委はテラが4月にコロナ治療薬開発を公表する前に、竹森がテラ株を不正に取引したと見ているという。しかし竹森は今年5月、テレビ朝日のインタビューに応じ「インサイダー取引はしていない」と答え、容疑を否認している。
■そこで、テラがコロナ治療薬開発を公表する前後に提出された大量保有報告書を見ると、竹森の関係先であるセネ社と内田建設株式会社(社長・久保田俊明)が、20年4月1から5月1日にかけて、創業者の矢﨑と、テラに投資していたレオス・キャピタルワークス(代表・藤野英人、「ひふみ投信」運用会社)からまとまったテラ株を市場外で取得し、コロナ治療薬開発公表後に市場で売却していたことが分かる。上記画像は取引チャートをまとめたものである。
■例えば、内田建設は矢﨑から合計323百万円で取得した148万株のうち、95万株を7月10日までに市場売却している。終値ベースで推計した売却代金の総額は約1,263百万円。残りの株も同水準(6月24日~7月10日までの平均売却価格)で処分したと仮定すると、売却代金の総額は20億円近くなる。
■セネ社もレオス・キャピタルワークスから185百万円で取得したテラ株の大半を処分している。内田建設と同水準で売却できたとすると、売却代金の総額は16億円程度となる。これにより得られた資金で、セネ社は7月22日にテラの無担保社債を10億円分引き受けていることから、市場売却により得られた資金は約12億円~16億円程度とみられる。
■上記を総合すると、竹森の関係法人がテラ株取引で得た売却益は30億円前後と見られ、5億円程度の初期投資額からすると法外な利益と言える。しかし監視委が問題視するコロナ治療薬開発公表前のテラ株取引は、矢﨑とレオス・キャピタルワークスとの市場外取引であり、金商法166条6項で定められるインサイダー取引規制の適用除外取引、いわゆる『クロクロ取引』に該当する可能性がある。

〈第一項に規定する業務等に関する重要事実を知った者が当該業務等に関する重要事実を知っている者との間において、売買等を取引所金融商品市場又は店頭売買有価証券市場によらないでする場合(当該売買等をする者の双方において、当該売買等に係る特定有価証券等について、更に同項又は第三項の規定に違反して売買等が行われることとなることを知っている場合を除く。)〉(金商法166条6項の七

■実際、当サイトの取材に応じた竹森は「私はレオス・キャピタルワークスからテラ株を取得し、矢﨑氏と内田建設のテラ株売買を仲介しましたが、譲渡契約には、4月末に新型コロナウイルス治療薬に関する事業を開始する旨が明記されており、公表前の株取引はいわゆる『クロクロ取引』であることは明白です。テラ株は資金繰りの都合から売却しましたが、売買代金のうち10億円はテラの社債取得代金となり、約15億円は、テラの顧問である『大樹総研』の矢島氏からの太陽光発電所の取得代金に使いました。テラ社債は後に株式化しましたが、そこで取得したテラ株と太陽光発電所は、maneo元社長の瀧本憲治氏からの借入金の担保として取られてしまいました」と述べた。
■実際、セネ社は、元々ソーシャルレンディングの「JCサービス」が保有しており、大樹総研のビークル名義に移っていた太陽光発電所を取得している。この辺りの経緯は詳細が分かり次第お伝えしたい。
■となれば、監視委は「インサイダー売り抜け」の線を狙っていく可能性もある。しかし、20年5月~6月の高騰局面で売り抜けたインサイダーは竹森だけではない。矢﨑やレオス・キャピタルワークスも、20年6月末までにテラ株の大半を処分している。竹森がインサイダー売り抜けで起訴されるならば、彼らも同様に摘発されなければ不公平感が出る。
■監視委は最近、ドン・キホーテ元社長の取引推奨規制違反事件を摘発し、社会の注目を集めた。しかし近年は、T&Cメディカルサイエンスやプロスペクト、五洋インテックスなどの小型株、ハコ企業を舞台とした案件で、強制調査に踏み込んでも起訴に至らなかった事案が多いように思える。
(文中敬称略、つづく)

2019年5月17日付レポート:【ミニ情報】上場廃止のT&Cメディカルサイエンス社長「インサイダー売り抜け」疑惑、ジャスダック上場バイオベンチャー「テラ事件」との接点

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